旅・いろいろ地球人
中国ムスリムと食
- (1)通り抜け禁止 2020年8月1日刊行
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奈良雅史(国立民族学博物館准教授)
中国・昆明市にある伝統的なモスク=2008年10月、筆者撮影
中国雲南省昆明市のとあるモスクの入り口には通り抜け禁止との立て看板が設置されている。そのモスクの表門と裏門はそれぞれ別の通りに繋がっており近道できるのだ。しかし、立て看板があるにもかかわらず、ムスリムに限らず、次々と人びとが出入りしていく。モスクの職員たちもそれを咎めることはない。どういうことなのだろうか?
一般的にモスクには儀礼などで食事を提供するための厨房と食堂が併設されている。このモスクではそれらを平時には一般向けの食堂として営業している。モスクでの人の出入りが多いのはそのためだ。
食堂では出来合いのおかずを何品か選ぶ定食のような形式の食事が提供されている。安くてボリュームもあり、なかなか美味しい。もちろんハラール(イスラーム法的に合法な)料理だ。食事時となると、それを目当てに近所で働く人たちなどがやって来る。
食堂のテナント料はモスクの運営資金の一部だ。その意味で、ムスリムかどうかを問わず、食事客はモスクの資金繰りの一助となっている。ただし、食事客と単に通り抜けて近道をする人の見分けはつかない。実際、通り抜けをしている人も少なくない。一見閉鎖的に見えるモスクも、多様な人びとが行き交う、存外、開かれた場所なのだ。
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