国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

中国ムスリムと食

(3)板ばさみ  2020年8月15日刊行

奈良雅史(国立民族学博物館准教授)


北京市で売られていたハラール即席めん=2018年3月、筆者撮影

中国・雲南省昆明市に暮らす回族(イスラーム系少数民族)のNさんは、漢族の友人たちに「頑固なやつ」だと言われていた。それを表すエピソードに、高校時代、Nさんが昼食にいつもカップラーメンを食べていたということがある。ハラール(イスラ-ム法的に合法なこと)の学食がなかったためだ。

私自身も似たような経験がある。回族のWさんとその漢族の友人たちと出かけた際、ハラール食堂がなかなか見つからなかった。結局、友人たちだけが食事に行き、Wさんと私は外で彼らを待つこととなった。

中国には日本に比べ多くのハラール食堂があり、広く受け入れられているが、回族の友人たちは多かれ少なかれ誰もが同様の経験をしているようだった。ただ、これは回族にとって対処がなかなか難しい問題だ。食物禁忌をしっかり守ると「頑固だ」と言われてしまうし、妥協すると「偽の回族」と陰口を叩かれてしまう。まさにダブルバインドだ。

一方で、回族同士あるいはムスリム同士での食事ではこうした煩わしい問題を回避できる。昆明市に暮らす回族たちのあいだではスポーツや慈善活動などを行ういくつかのグループが作られている。それらの集まりでは最後に皆で食事をすることが定番だ。食事に関する気がかりの少ない回族同士の付き合いは、参加者曰く「心地良い」ものとなるのだ。

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