国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

中国ムスリムと食

(4)断食の快味  2020年8月22日刊行

奈良雅史(国立民族学博物館准教授)


ラマダーン期間中の賑わうモスクの食堂=中国・雲南省箇旧(こきゅう)市で2009年9月16日、筆者撮影

5月下旬にラマダーンが明けた。中国・雲南省昆明(こんめい)市にあるモスクの宗教指導者にお祝いのメッセージを送ると、「(COVID-19の影響で)今年のラマダーンは寂しいものだったよ」との返事。ラマダーンというと「断食」で辛く苦しいことが想起されるかもしれない。しかし、彼の言葉には「いつもなら賑やで楽しいものなのに」との含意がある。

ラマダーン期間中、ムスリムには教義上、「断食」が義務づけられる。ただし、「断食」は日中のみで、日没後と日の出前に食事をとる。

モスクにはたいてい厨房と食堂があり、ラマダーン期間中、礼拝に来た者に日没後の食事が振る舞われる。毎晩200名ほどのムスリムが一堂に会して食事をとる。モスクに住み込む者も数十人おり、彼/彼女らは日の出前の食事もモスクでとる。

献立は喜捨の多寡によって異なるが、多くの場合、1卓10人で9品ほどの料理が提供される。食べ切れないほどの量で、ご飯もおかわり自由。日の出前も同様の献立だ。朝からたらふく食べて「断食」を乗り切る。

普段それほど賑やかではないモスクだが、ラマダーン期間中には多くの人たちがやって来て、親族や友人たちとわいわい食事をとる。毎日がお祭りだ。彼/彼女らはそれを「楽しい」と語る。来年は「楽しい断食」の実施がかなうよう祈るばかりだ。

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