旅・いろいろ地球人
韓国農楽の追憶
- (1)夏休みの後遺症 2020年9月5日刊行
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神野知恵(国立民族学博物館機関研究員)
韓国・高敞の冬湖海水浴場で楽器片手に語り合う若者たち=イラスト・筆者
コロナ禍で往来が難しい今、韓国での日々が無性に恋しくなる。私は2006年に韓国留学し、打楽器を用いた伝統芸能の「農楽(ノンアッ)」に出会った。所属する大学のサークルで先輩から毎夏恒例の強化合宿に誘われ、ソウルから高速バスで4時間ほど南西に下った全羅(チョルラ)北道(プッド)高敞(コチャン)郡に位置する「高敞農楽伝授館」を訪れた。
伝授館は廃校を利用した施設だ。当時はエアコンがなく、夏は滝のように汗を流し、蚊と闘いながら太鼓の練習をした。おやつに食べた地元名産のスイカや、普段は見向きもしないチョコパイがびっくりするほどおいしかった。練習後はマッコリで乾杯し、ギターでフォークソングを歌い、朝日が昇るまで語り合う。そうやって都市から集まった大学生たちが1週間、寝食を共にするのだ。
合宿のうち1日は、遠足で海に行った。韓国の西海岸は遠浅なので、干潮の時は水際までの距離が長い。皆で太鼓をたたきながら歩き、干潟に足をとられて転んだり、水をかけあったりして、はしゃいだ。そして泥だらけの姿のまま、夕暮れの海岸で缶ビールを飲んだ。若者にとって、これ以上の青春があるだろうか。
そのとき夢を語り合った仲間たちとは毎年高敞で再会する。私が農楽を研究し続けているのは、何度も繰り返し通った夏合宿の、冷めやらぬ熱のせいだ。
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