旅・いろいろ地球人
海洋考古学の世界
- (1)石垣島の海底遺跡 2020年10月3日刊行
-
小野林太郎(国立民族学博物館准教授)
屋良部沖海底遺跡の四爪錨を調査。東海大開発の水中ロボットも活躍した。=沖縄・石垣島で2012年、山本遊児氏撮影
海洋考古学と聞いて何をイメージされるだろうか。たとえば海底遺跡や沈没船。これらはもちろん、海洋考古学の対象だ。だがそれだけではない。海洋考古学は、海と人類の歴史を探求する学問。海中だけでなく、島や沿岸域に残されたさまざまな遺跡がそのフィールドとなる。ここでは国内外におけるその多様な研究現場や遺跡を紹介したい。
サンゴ礁が発達する沖縄は、日本における海底遺跡の宝庫である。石垣島にも海底遺跡が存在する。その多くは台風などで難破し、浅いサンゴ礁に座礁した船やその積み荷からなる遺跡群だ。2012年から調査してきた屋良部沖海底遺跡もそんな遺跡だった。水深20~30メートルの海底に七つの鉄製四爪錨(よつめいかり)や沖縄産の近世陶器壺が多数発見され、沈没船も眠る可能性が出てきた遺跡である。
とくに興味深いのは四爪錨。九州以南では江戸時代における代表的な錨だが、沖縄で発見されたのはこの屋良部沖が初となった。では一体、その持ち主は誰か。まず四爪錨を搭載していた中国船、薩摩船が候補となったが、石垣島は両者の航海ルートの外。一方、陶器壺の存在は琉球船の可能性を示唆するが、四爪錨が琉球船に搭載された記録はなし。研究もここで暗礁に乗り上げた。発見が新たな謎を生むのは常だが、次回はこの四爪錨の謎に迫りたい。
シリーズの他のコラムを読む
- (1)石垣島の海底遺跡
- (2)四爪錨の謎と魅力
- (3)トケラウ―環礁での発掘
- (4)ポンペイ島の謎を追う
- (5)海を越えたサピエンス