国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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海洋考古学の世界

(5)海を越えたサピエンス  2020年10月31日刊行

小野林太郎(国立民族学博物館准教授)


4万年前の人類痕跡が残るトポガロ洞窟の遺跡での調査風景=インドネシアで2017年、筆者撮影

インドネシアのスラウェシ島は5万年前の氷期の時代も島だった。海面が最大で150メートルも低くなった当時、隣のボルネオ島やジャワ島はアジア大陸と陸橋で繋がり、陸路での移住が可能だった。しかしスラウェシ島を含む東インドネシアの島々に人類が移住するには、どうしても海を渡る必要があった。

一方、その先にあるオーストラリア大陸には約5万年前までには私たち現生人類=サピエンスが初の移住に成功した痕跡が見つかっている。オーストラリアへの移住にも長距離航海が必要となるが、サピエンスの起源地がアフリカの場合、スラウェシ島への渡海と移住がより先行していたことになる。では一体いつごろ、私たちの祖先は海を越え、スラウェシ島に辿り着いたのか。またどんな暮らしをしていたのだろうか。

スラウェシではまだ5万年を超えるサピエンスの遺跡が発見されていないが、近年では4万年前という世界最古の壁画も発見された。私も2016年より東部沿岸のトポガロ遺跡という大きな洞窟群にて発掘を始め、昨年ついに4万年前の層に辿り着いた。堆積はまだ深く、さらに古い人類の痕跡も期待できる。残念ながらコロナ禍で今年の調査は中断となったが、海を越えたサピエンスの新たな痕跡を探す海洋考古学の冒険はここからが正念場と考えている。

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