旅・いろいろ地球人
音の響き
- (2)結婚を彩る 2013年7月4日刊行
-
藤本透子(国立民族学博物館助教)
ドンブラを弾く結婚祝いの司会者(中央)=カザフスタンで、筆者撮影中央アジア、カザフスタンの結婚祝を彩るのが、弦楽器のドンブラ。たった二弦をつまびくことで、サイガ(レイヨウの一種)が草原を駆ける足音や、チョウがひらひらと美しく飛ぶさまの描写など、不思議なほど多様なパッセージ(楽節)が表現される。ドンブラはカザフの心の楽器であり、たとえ習わなくともおのずから弾けるようになるという。
結婚祝いの司会者はこのドンブラをかき鳴らし、ジャルジャルという掛け声を陽気に繰り返して、花嫁を迎える歌を歌う。ベールで顔を隠しウエディングドレスを着た花嫁が兄嫁たちに付き添われて来ると、嫁入りの儀礼が行われる。司会者はドンブラを弾きながら歌で花婿の家族や親族ひとりひとりを花嫁に紹介し、「花婿の父にひとつお辞儀を!」などと促す。
婿側へのお辞儀がようやく終わり、「さぁ花嫁のベールを開けよう、この聖なるドンブラによって!」と司会者が叫んでベールを弦楽器の棹(さお)でパッと取ると、花婿の親族はいっせいに駆け寄って花嫁を祝福する。
シンセサイザーに取って代わられることもあるとはいえ、ドンブラは依然として高い人気を誇る。心を映し出す音色に包まれて、若い女性は新たな一歩を踏み出し妻となっていく。
シリーズの他のコラムを読む