旅・いろいろ地球人
負の記憶の博物館
- (1)南京大虐殺紀念館 2017年12月7日刊行
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平井京之介(国立民族学博物館教授)
正式名「侵華日軍南京大屠殺遇難同胞紀念館」の入口=中国江蘇省南京市で2014年、筆者撮影
二度と同じ過ちを繰り返さないために、「負の記憶」を後世に伝えることは、博物館の重要な役割のひとつである。しかし、伝え方を間違えると、社会に新たな分断を生むことにもなりかねない。
3年ほど前、中国で南京大虐殺紀念館を見学した。1937年12月に日本軍がおこなった虐殺行為を伝える資料館だ。展示品のほとんどは日本軍や日本政府が残した資料で、日本語で書かれている。これはこれで見ごたえがあった。当時の日本人のものの見方や中国人に対する意識がうかがわれ、勉強になった。
展示には、中国語と英語、日本語で解説がついている。日本軍がいかに残虐であったかを伝える表現は、憎悪を扇動するといってもいいものだった。
館内は薄暗く、そのうえ相当に混雑している。多くの若者の団体客とすれ違ったが、彼らは展示をみて激しい憤りを感じているようだった。日本人とわからないように、わたしはひたすら英語の解説だけを読んだ。
資料と解説を冷静に見比べれば、そこに幾分かの距離があることは理解される。だが、大半を占める地元の来館者には展示品の日本語資料は読めず、解説との距離がわからない。結果として、解説の記述が事実として記憶されることになる。
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