国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

タイを味わう

(1)旬の味  2019年7月6日刊行

大澤由実(国立民族学博物館機関研究員)


ヘットトープのスープ(右)と、ジンソム(発酵した豚肉)の包み焼き(左)=タイ王国チェンマイ県で2015年、筆者撮影

一年中暑いイメージのタイにも季節はある。季節の移ろいを感じさせてくれるのが旬の食べ物だ。タイの北部では雨季の始まる5月過ぎになると、ヘットトープと呼ばれる野生のキノコが出回る。丸くてコロンとしたそれを噛むと皮がプチっと弾け、トロッとした中身が出てくる。

コリッとした皮の触感とクリーミーな中身、そして癖のないキノコの良い香りが口内に漂う。茹でたものをナムプリックと呼ばれるディップと一緒に食べたり、ゲーンと呼ばれるスープやカレーに入れたり、炒めても美味しい。

ツチグリの一種であるヘットトープは未成熟な幼菌のうちに採らなければならない。育ちすぎたものや、収穫後時間が経ったものは、中が変色し、ボソボソとした全くの別物だ。中の様子は噛んでみるまでわからないので、これは当たりかハズレかドキドキしながら頬張るのだ。

北タイでは毎年3月ごろに発生する煙害が深刻な問題で、山焼きや山火事の煙が原因と指摘されている。ヘットトープは山焼き後の土によく生える。

今年、チェンマイのオーガニック・マーケットでは、煙害を少しでも防ぐためにと、ヘットトープの販売を禁止した。いつか、この旬の味が無くなる日がくるのだろうか。

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