国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

フィジー語で暮らす

(3)これ、あげる!  2020年3月21日刊行

菊澤律子(国立民族学博物館准教授)


集団漁労の日に獲れた大きな熱帯魚=カンダブ島で2019年3月8日、著書撮影

フィジー語は所有表現が豊富だ。「あなたの」というだけでも4種類あるが、そのうちの三つ、kemu、memu、nomuは順に、食べ物か飲み物か、その他の一般的な所有物かによって使い分けられる。魚にkemuをつければ「あなたが食べる魚」、nomuなら「あなたの所有する魚」。あなたが捕まえたものかもしれないし、売っているものかもしれない。ものの状態によっても使い方が変わる。緑で硬いマンゴーは食べ物形kemu、熟したオレンジ色の柔らかいものは飲み物形memu。いずれの場合にも、売り物の場合はもちろん一般所有形でnomu。これらの形は、いずれもmuの部分が「あなた」を表しており、「私の」という場合ならquになる。

さて、村の集団漁労でのこと。集まった魚を指しての獲りもの自慢は、一般形を使って「これnoqu!」「それnoqu!」とにぎやかなこと。分配する段になると今度は食べ物形になり、「これkequ!」「それkequ!」と、またにぎやか。そのうち一人が「これkemu!」と、自分のとり分の中から私に魚をくれた。その瞬間、私の頭の中で意味と形と用法がはじめて一致した。「これ、あげる!」というのが教科書的な用法だけれど、この場合はke形だから「食べてね」という意味なんだ! 言語には使って暮らしてみてわかることが本当にたくさんある。

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