国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

フィジー語で暮らす

(4)単純ではない公用語  2020年3月28日刊行

菊澤律子(国立民族学博物館准教授)


村での暮らし。身につくのは言語だけではない=カンダヴ島で2019年3月、筆者撮影

日本で地域方言と標準日本語の「2方言併用」が一般的であるように、フィジーでも、フィジー系住民が住む村では土地の言葉と標準語の併用だ。日本と違うのはその政治的な位置づけで、元英領であることから、長く公用語が英語のみだった。1997年にはじめて、フィジー語とヒンドスタニ語が加わったが、後者は人口の約4割を占めるインド系フィジー人が使う言語だ。

2013年版の憲法は正本の英語版に他2言語の訳が添えられた3言語で提供されている。ただし、フィジー語はイタウケイ、ヒンドスタニ語はヒンディーと呼称が改められ、また、フィジー語に重きを置くべきだ、いやヒンディー語も同等に扱うべきだ、という議論もあり、3言語にしさえすればよいというわけではないことがみてとれる。

村に子供を預けているという女性に会ったことがある。太平洋では祖父母が孫を育てることは珍しくないが、聞くと、首都の学校ではフィジー語が身につかないから、15歳までは父親の実家に預けることにしたという。この話を聞くと首をかしげる人もおり、学校によって違うのか、もしくは本当は別の理由があったのかもしれないが、いずれにしても、国として複数の言語が俎上にあがったのは大きな第一歩。フィジーらしい形が見つかるよう祈っている。

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