国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

特別展「きのうよりワクワクしてきた。」

佐野

中野

田中

長井

 

● 音楽、小さく鳴っている。4人、階段脇に待機。(右に佐野・中野、左に田中・長井)
● 4人、口々に小さく呟くながら階段を下りて来る。
「家族はロマンティックである。五分五分の賭けだから。家族はロマンティックである。勝手気ままだから。家族はロマンティックである。それがそこにあるから」

(階段に残る)

広場中央へ。

● 音楽、カットアウト。

「家族はロマンティックである。五分五分の賭けだから。家族はロマンティックである。勝手気ままだから。家族はロマンティックである。それがそこにあるから」

  

  

  

● 大きく、音楽イン。原P、それに合わせタイコ演奏。
●佐野、舞台中央へ。各自、毛糸を装着。

その場に残る

子供部屋手前へ

玄関へ

その場に残る

● しばらくして、音楽小さくなる。

  

  

  

父、長井孝夫、兵庫県尼崎市生まれ。現在70歳。

  

(子供部屋)
「おーい、いい加減起きんと、遅刻すんで~。ほんまに、いくつまで親に起こしてもらおうと思っとるんやろ。いつまでも親がいると思うなっちゅうんや!!電話のせい?あー、そう言えば、昨日遅くまで笑い声が聞こえてたなあ。なんや、最近、よー長電話しとんなあ。電話のコード引っ張って、よっぽど聞かれたくない会話してるんやろうか? え?ボーイフレンド?なんや、そんな話聞いてへんで。あいつ彼氏できたんか?」

(キッチン)

 

(揃えて)
「シャカシャカシャカシャカ」「ジュワーッ」

 

(揃えて)
「シャカシャカシャカシャカ」「ジュワーッ」

  

  

  

(キッチンを美しく動いている)

母、山根妙香。島根県大原郡木次町生まれ。現在63歳。

「シュワッ、シュワッ」「パチッ、パチッ」「パキッ」「サクッ」「パキッ」「サクッ」

(移動)

「シュワッ、シュワッ」「パチッ、パチッ」グリルからサバの脂。皮。焼けて弾ける音。サバの無事を確認。よし、焦げてない。冷蔵庫。ウインナー。ブロッコリー。フライパンの余った場所。踊るウインナー。「パキッ」「サクッ」ブロッコリー。「パキッ」「サクッ」。

 

 

 

 

孝夫、7歳。伊丹小学校入学。

孝夫、14歳 伊丹西中学校2年生。映画スターに憧れる。当時からハイカラで女の子にモテる。ある日、山中にて、本物の強盗に遭遇し、拳銃を突き付けられる。西部劇かぶれの孝夫。「手を上げろ!」の言葉に、笑顔を浮かべる。憧れの夢が叶った瞬間だった。

(音楽・ズレてもOK)
「パチッ、パチッ」「ザクッ」「ピィーッ」

(移動)

(擬音・ズレてもOK・田中先行)
「パチッ、パチッ」「ザクッ」「ピィーッ」

  

 

(子供部屋)
そやから、昨日、部屋覗いたら、すごい剣幕で襖しめよったんやなあ。なんやー、彼氏か~。同じクラスのやつか?へー、サッカー部の先輩。年上かいな?手紙?なんや、あいつラブレター書きよったんかいな。また、古典的やなあ~。メールやらなんやらあんのに手紙かいな~。へー、片思いがようやく実った?入学したときからずっとその先輩のことを想ってった? で、いつからのお付き合いや?なんでお前にはそういう話して、わしにはしいひんのや。どういう過程でそういうことになったんやろ?いつ手紙なんて渡しよったんやろ?そう言えば、最近、毎朝、えらい念入りに洗面所の鏡見てるなと思ってたんや。なんやせわしのう、チャラチャラ、カチャカチャ。

(小声で、間を空けて)
「ピィーッ」お湯。沸騰。ヤカン。ポット。鍋。煮干し。まな板。ペーパ。「パチッ、パチッ」程好い焦げ目。タマゴ焼き。ウインナー。まな板へ。荒熱。「ポンッ」野菜庫。大根。包丁。皮。いちょう切り。

  

(同時)
「シャッ、シャッ、シャッ、」「ピーッ、ピーッ、ピーッ」

  

(同時)
「シャッ、シャッ」「ピーッ、ピーッ、ピーッ」

  

  

ピーピーピーピー、とにかくうるさいねん。ドライヤー。

  

  

  

  

  

妙香、7歳。木次小学校入学。ヤマタのおろち伝説の町。その伝説を信じて竜におびえる。

妙香、11歳。小学5年生。ピアノコンクールで賞を取り、ラジオ出演。「エリーゼのために」を弾く。

妙香、14歳。三刀屋中学2年生。夢見る少女、中学生にして絵画の大御所に入門。その日から、絵を描く日々が始まった。

  

  

「7時過ぎよ、早く起きなっせ。遅刻しても知らんけんね」

  

  

おい、はよせえ。遅刻してもしらんぞー。

  

  

「パンッ、パンッ」「バタバタバタ」「パンッ、パンッ」「バタバタバタ」

  

捨て台詞。台所。炊飯器。ゴハン。杓文字。(今日の水加減はばっちり。)蓋。戸棚。神棚。「パンッ、パンッ」(今日も一日皆が無事でありますように。)「パンッ、パンッ」「バタバタバタ」スリッパ。子供。布団「いい加減にしなさい!」カミナリ。再び台所。大根。冷蔵庫。ワカメ。タマゴ焼き。包丁。美しい断面。(腕の見せ所)。ニラ。タマゴ。(いつもより鮮やか)

  

  

  

  

孝夫、17歳。芦屋高校入学。ジャズ喫茶へ通う毎日。海外文学。洋画。あらゆることが、ロマンティック。映画監督になりたいと強く思う。

孝夫、21歳。神戸大学法学部2年生。将来を考える。

孝夫、24歳。保険会社に就職。はっきりいって仕事のできる男。だが、日々の仕事はとてつもなく忙しい。

孝夫、30歳。過労による入院。自分を見つめなおす。長く苦しい問いかけ。

   

おい、ええ加減、はよ起きろ。

 

   

  

  

「お父さん、起きなっせ!」

  

「シュワッ、シュワッ」「パチッ、パチッ」「ザクッ」「シャッ、シャッ、シャッ、」「ピィーッ」

でも、わしかて、野球部でエースやってた時は、よう、手紙もろたわ~。相当なもんやったで…毎日、毎日下駄箱の中にはラブレターがどっさりや。言うのはタダ?そら、お前は知らんだけやで。おばあちゃんに聞いてみ~。アルバムもあるはずや。にしても、男とあんなに遅くに電話はいかん。試験中やから起こし合い?もっといかんやろ~。しゃべっとるヒマがあったら、勉強しろって言うんや。お、やっと起きて来たか。はよ支度せえ。ええか。

「ピィーッ」「パチッ、パチッ」「ポンッ」
「ピィーッ」「パチッ、パチッ」「ポンッ」

  

  

「いただきます。」

「いただきます。」

  

  

  

  

孝夫、33歳。人生の転機。会社を辞める。パリへ旅たつ。

●リズム、大きくなる。
●4人、口々に呟く。
「家族はロマンティックである。五分五分の賭けだから。家族はロマンティックである。勝手気ままだから。家族はロマンティックである。それがそこにあるから」


●リズム、急激に小さくなる。

 

 

 

妙香、19歳。女子美術大学洋画科入学。東京へ上京。伯母を頼って下宿する。

妙香、23歳。女子美術大学卒業。そのまま東京に残る。教員免許を取得。美術の講師を務める。

妙香、27歳。長井孝夫と出会う。

  

(リビング)(小声で、ヤを空けて)
「めざましテレビ。ズームインSUPER。トクダネ。痛快!エブリデイ。なるトモ!はなまるマーケット。おはよう日本。笑っていいとも。おもいっきりテレビ。暴れん坊将軍。ごきげんよう。ザ・ワイド。サスペンス傑作劇場。スーパーニュース。にんげんドキュメント。手話。今日の健康。ニュースすくらんぐる。ザ!世界仰天ニュース。はぐれ刑事純情派。NHKスペシャル」

(ダイニング)
「はよしなっせ、7時40分よ。・・・・ハンカチ、アイロンかけたとはそこに置いてあるたい。さっちゃん、お姉ちゃんにこれば持ってってあげて。・・・・もうゴハン注ぐよ。・・お茶淹れて。・・・・はい、あっち持ってって。これはお姉ちゃん、これはお父さん、あとはどっちでんよかたい。・・醤油は置いてあるね?・・・漬けもんなかったね?ならすぐ切るけん、先食べよんなっせ。・・・・神さんにお参りしたとね。ちゃんとせなんよ。・・・はい、いただきます。・・・・あ、懇親会の日程、先生に聞いといてね。でないとお母さんもいつでん休みとれる訳じゃなかけんね。はよ言わなん、こっちも都合があるたい。・・・・今日試験ね?頑張らなんたい。なーん小テストでっちゃ大切たい。ほら、もう7時45分よ」

  

7時45分

 

  

  

  

7時45分

  

  

  

  

  

妙香、27歳。孝夫、35歳。結婚。出雲大社にて結婚式。

  

(小声で、間を空けて)
きょうの料理。趣味悠々。報道ステーション。演歌百選。世界の車窓から。筑紫徹也のNEWS23。愛と友情のブギウギ。語楽紀行。ようこそ先輩、課外授業。

あら、お父さんな今日夜講たい。忘れとったぁ。ばあちゃんちに荷物ば取り行ってもらうつもりだったたい。あらーどぎゃんしようかね。まあよかたい。どぎゃんかなっど。・・・今日ん夜は何が食べたかね。お母さんもたまには休みたかけん、どっか食べ行くね?お父さんよかろ?お姉ちゃん、背筋はピシッと伸ばして。見苦しかよ。・・・・あらお父さん、お弁当こっちよ。そっちは私がつたい。・・・・はい、いってらっしゃい。」

  

 

いってらっしゃい。

  

  

パチ

 

パチ

 

 

ニュースの時間。

 

 

●音楽、急激に大きくなり、すぐに下がる。全員、徐々に中央に集まってくる。

えーそれではさっそく、主なニュースです。まず、三和銀行事件で、ここは、仁川(にがわ)支店グループが、あります。30日前で、「約5、000円」が、あります。松永記者です。

 

  

  

  

えー、住専金融機関が、住専国会です。ここは、住専問題が、えー住専国会があります。

  

  

  

  

住専のマンションで、末野興産が、あります。大阪府淀川区の不動産を、午後3時頃まで、迎えます。一方、大阪不動産会社が、マンションが、あります。

  

  

  

  

次のニュースですが、大和銀行事件で、アメリカの外国人が、あります。ここはニューヨーク支店グループにある、世界が、「約26、000円」が、あります。えー大和銀行事件、加藤一郎事件です。鈴木記者の報告です。

えー大和銀行事件で、えーアメリカの外国人じゃ、ありません。はい中継です。えー松永さんです。はい、わかりました。

  

  

  

  

東京ディズニーランドから、えーアメリカがあります。それではさっそく、中継です。進藤さーん、どうぞ。はい、わかりました。

  

  

  

  

イスラエルのヨーロッパで今、外国人が、あります。えーそれではさっそく、中継です。えー雨宮塔子、どうぞ。

  

  

  

  

三洋電機事件で、メキシコの外国人があります。アメリカのニューヨークで今、世界があります。三洋電機事件、えー岡本芳郎事件です。岡田記者の報告です。はい、わかりました。

続いてのテーマなら、「常磐貴子が、しわ伸ばし」です。

  

  

  

  

えーここは、「兵庫県西宮市」の秋より、コスモス色で、あります。

  

  

  

  

えーアトランタオリンピックがあります。えーアトランタオリンピックがある、100年が、あります。それではさっそく、中継です。えー福島弓子どうぞ!!

  

  

  

  

はい、分かりました。それでは、次にまいります。よろしいですか。今日から、世界陸上で、体操が、あります。体操選手に、加藤紀子で、やって来ました。

次に、まいります。よろしいですか。まいりましょう。今年より、アトランタオリンピックで、どの開会式から、やって来ました。

  

  

  

  

はい、それでは、さっそく、頑張りましょう。えーそれでは、まず、「橋本首相外務大臣で、お酒国会」です。

  

    

  

  

えーまず、本日のテーマなら、「自民党の国会元社長事故で、表彰遺産」です。

  

  

  

  

えーそれでは、今週のテーマなら、「社会党・新進党のPKO法案容疑者」です。

逸見政孝の奥さんで、芸能人です。はい、コマーシャルの後にどうぞ。

  

  

  

  

えーその前に、お知らせです。

  

  

  

  

  

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ごらんのスポンサーの提供でお送り致しました。

●音楽、大きくなる。原P、タイコ見せ場。
●ここで、場所チェンジ。何らかのパフォーマンス。中野・田中は場所交代。
●音楽、カットアウト。
●佐野、朗読。

ヨードクおじさんのことを私はまったく知りません。知っているのは、それが祖父のおじさんだということだけです。私は、それがどんな風貌で、どこに住んでいて、どんな仕事をしていた人なのか知りません。
私が知っているのはおじさんの名前だけです。それはヨードクというのです。
祖父はこんなふうに話を始めました。「ヨードクおじさんがまだ生きておったとき」とか「ヨードクおじさんを訪ねたときのこと」とか、「ヨードクおじさんがわしにハーモニカをプレゼントしてくれたとき」とか。
そして祖父に、「ヨードクおじさんて、どんな人だったの」と訊くと、こう言うのでした。「頭のいい人じゃったよ」

 ところが祖父は嘘つきでした。
よく祖父は電話機のところへ行き、受話器を取って、番号を回して、そして電話機に向かって言ったものです。「やあ、ヨードクおじさん、ご機嫌いかがですかな。ヨードクおじさん、いいえ、ヨードクおじさん、ええ、そうですとも、もちろんですとも、ヨードクおじさん」。それでも私たちはみんな知っていました。祖父はそんなことを話しながら、じつは電話機のフックを下ろして、電話しているふりをしているだけだったのです。
それに祖母もそれを知っていました。でも祖母はそれでも大声でこう言いました。「いいかげんに電話をやめにしてください。料金が馬鹿になりませんから」。
孫の私たちが祖父のところへ行くと、祖父は、「二×七はいくつじゃ」とは訊かずに、「ヨードクってどう書く」と訊くのでした。
祖父にはもうヨードクしかなかったのです。
もう祖父は郵便屋さんに、「こんにちは、ヨードクさん」と言い、それから私のことをヨードクと呼びほどなくだれでも彼でもヨードクと呼ぶようになりました。
ヨードクというのは祖父の愛称で、「親愛なるヨードク様」だったし、祖父の罵り言葉で「えい、いまいましいヨードクめ」、祖父の呪いの言葉で、「ヨードクにさらわれちまえ」といった具合でした。祖父はもう、「ワシは腹がへった」とは言わず、「ワシはヨードクがへった」と言いました。しばらくするともう、「ワシ」とも言わなくなり、それからは「ヨードクはヨードクがへった」と言うようになりました。
祖父は新聞を手に取り、『ヨードクとヨードク』ーつまり事故と事件ーの面を開き、声に出して読み始めました。
「ヨードクにヨードク近郊のヨードクでヨードクが起こり、二つのヨードクが犠牲となった。一つのヨードクがヨードクでヨードクからヨードクへ行った。短いヨードクのあと、ヨードクのヨードクでそのヨードクが一つのヨードクとともに起こった。ヨードク・ヨードクとそのヨードクである、ヨードク・ヨードクはそのヨードクで死亡した」
祖母は耳に指を突っ込んで、叫びました。「これ以上聞いていられない。もう我慢できない」。それでも私の祖父は止めませんでした。祖父は死ぬまで止めませんでした。それに私の祖父はとても長生きでした。そして私は祖父が大好きになりました。そして祖父が最後にはもうヨードクとしか言わなくなっても、私たち二人はいつもとてもよくわかり合いました。私はとても小さく、祖父はずいぶん年をとっていました。祖父は私を膝に乗せ、ヨードクにヨードク・ヨードクのヨードクをヨードクしてくれました。


●朗読終わりで、音楽一度大きくなり、2小節で急激に小さく。

 

「ただいま。」

 

 

  

  

「ただいま。」  

   

おかえり。

  

  

おかえり。

  

「今日むかつくことあってん。」

 

 

 

 

「今日むかつくことあった。」  

 

何?

  

  

 

   

   

   

何?

  

宮口先生。

  

  

  

  

宮口先生。

  

あら、宮口先生。

  

  

あら、宮口先生。

 

バスケの授業。集中攻撃された。宮口先生と一対一。

  

  

  

  

「あんなボール投げる?普通。余計取れないって。頭悪いって」

  

先生に頭悪いてなんて

  

  

  

 

 

 

そんなこと言ったら駄目でしょ。

 

  

だって見てよ

  

   

突き指でこんな指腫れたんやから。

  

  

ちょっと、見せてみなさい。

  

  

  

  

  

  

ほら、早よ。

 

  

  

授業終わってからも投げたもんね

  

  

ていうか、あれイジメやろ。パスには見えんかったもん

  

  

こんなの大したことない

  

  

  

  

  

  

大したことない。

  

そんなことない。

  

  

  

  

そんなことない。

  

  

むかつく!宮口

  

  

  

  

考えられないって!

  

  

腹立つう!

  

  

運動神経悪いのよ。

  

  

  

  

  

  

鍛えられてちょうどいいでしょう。

 

痛!

痛!

 

ああ、ごめん、ごめん。

 

 

ああ、ごめん、ごめん。

  

ちょっとお母さん!

ちょっとお母さん!

  

   

  

  

彩香。兵庫県尼崎市生まれ。長井家の長女。姉。

●音楽小さくイン

「バタバタバタッ」「バタンッ」

(キッチン)
5月14日(土) くもり時々晴れ。
明日、いよいよ渡すつもりで手紙を書いてみた。封筒も便箋も趣味のイイモノを選んだつもりだし、みんなに何度も添削してもらったので、漢字の間違いもないだろう。文章的にもいけてるはず。もう一度読み直す。うん、我ながら名文。

(子供部屋)小声で
玄関。靴。ワックス。廊下。「ドタドタドタッ」「バタンッ」。キッチン。冷凍庫。高さ182センチ幅60センチ奥行き66センチ。板チョコ最中。「バタバタバタッ」「バタンッ」 。階段。自分の部屋。着替え。広さ6畳。西向き。窓。壁紙。

 

(ズレて1)サラサラサラサラー

 

(ズレて2)サラサラサラサラー

(ズレて3)サラサラサラサラー

  

でも、校門で待ち伏せせるのもどうかなあ。家の近くって言うのも、ちょっとストーカーぽいかなあ~。ただでさえサッカー部なんてモテルのに、ましてやこんな1年生、相手にしてくれるかなあ~。
いや、大丈夫!!もしうまくいかなかったとしても当たり前。ダメもとでがんばろう。スカートもシャツもアイロンかけて…」

  

  

(同時に)シューーーー

 

(同時に)シューーーー

  

  

  

  

絵里香。兵庫県尼崎市生まれ。長井家の次女。妹。

今夜はチキンカツよ。

  

 

  

  

  

あれ?外に食べに行くんじゃなかったの?

  

気が変わった。チキンカツが食べたくなった。

  

  

  

  

  

お姉ちゃんは?

  

自分の部屋。何か、さっきアイロン貸してくれて言ってたけど。

  

  

  

 

(同時に)シューーーー

  

(同時に)シューーーー

ほら、もうごはん出来るから着替えてきなさい。お姉ちゃんにもそう言って。

  

  

  

  

  

ちょと待って。汗かいたからシャワー浴びる。

  

  

(同時に)キュッ、キュッ、ザーー

  

(同時に)キュッ、キュッ、ザーー

  

(ダイニング)小声で
本棚。百科事典。家族旅行の写真。FAX機。掛け時計。タウンガイド。タイガースのカレンダー。神棚。父の帽子コレクション。双眼鏡。

(風呂)
「平均入浴時間50分。だいたい肩から洗います。あっ、真っ先に髪かな。先に湯船に使ってから、歯磨きするかも。ゴハン食べた後に。最近は朝に入ることも多いです。その場合は、シャワーで済ませますけど。ああ、ぬるい目のお湯で半身浴することも多いですね。

  

(順に1)フゥーーー

(順に2)フゥーーー

 

(順に3)フゥーーー

  

小声で
親戚の画家が描いた猫の絵(額入り)。焼酎セット。24時間テレビの募金用貯金箱。快温湿度計。ふくろうの置物。使用されていないアマチュア無線機。マッサージ機。ティッシュBOX3箱。植木鉢6個

父のすぐ後は、熱すぎて入れません。そうそう、最近、家庭でもミストサウナ付けられるんですよね。あれ、憧れ。やっぱりダイエットや美容とか興味あります。少し前まで入浴剤にも凝っていました。父と母は、どこそこの温泉の素に凝ってますが、私はちょっと変わったのを探してきては姉と楽しんでいます」

  

ほら、早くしなさい。

 

 

 

 

 

 

ほら、早くしいや!

 

ちょっと待ってえー!

 

 

  

  

ちょっと待ってー!

  

何してるの?

 

 

 

 

 

 

何してんの?

 

まだアイロンがけ終わってないねん。

 

  

  

 

まだ体洗ってないって。

 

あとどれくらい?

 

 

あとどれくらい?

 

10分

 

 

 

 

15分

 

じゃあ30分はかかるね。

 

 

 

 

 

 

そういうことやね?

 

うん、まあ

うん、まあ

 

じゃあ、お母さん、テレビでも見てるから早くしなさいよ。

 

 

 

パチ。

 

分かってるって。

 

 

 

 

ほなお母さん、電話してるわ。早よしいや。

 

分かってるって。

 

トゥルルー

早くしなさいよ。

 

 

 

 

 

 

早しいや!

 

分かってるって!

分かってるって!

 

●一瞬、音楽大きくなり、すぐに小さくなる。

「家庭のもめはいややねえ」

 

  

 

 

 

 

「何やもめとんのか?」

「孫がでけてね」

  

  

  

  

  

  

「誰にや?」

「ぼくに」

  

  

  

  

  

  

「きみに孫ができるような、そんな大きな子どもがいてんのか」

「二十三の娘がおるが。この娘の婿ちゅうのが酒グセが悪うてな」

  

  

  

  

  

  

「そないクセが悪いの」

「酒乱やね」

  

  

  

  

  

  

「そらいかんな」

「で、ぼくが帰った物音に目をさまして、エウワー、酒こうてこい、コラー、とこうや」

  

  

  

  

  

  

「で、きみ、どないしとんねん」

「瓶もって買いにいくねん、ぼくは」

  

  

  

  

  

  

「黙って買いにいっとんの」

「はいな」

  

  

  

  

  

  

「なさけないことすな、おい、娘の婿の酒をきみがなんで買いにいかないかん、きみは親の立場にあんねん」

「ところが恩があんねん、ぼくは」

  

  

  

   

  

  

「金でも借りとんのか」

「そんな生やさしいものとちがうねん、親父と娘がいっしょになりよってん。おもろいやっちゃ」

 

 

 

 

 

 

「何がおもろいやっちゃ! ようこんなアホな話しよるわ、こら、無茶苦茶やないか」

 

お母さん!

お母さん!

 

何?

 

 

 

  

  

  

何や?

 

 

音、大きいって!

 

  

声、大きいってぇー!

  

   

●音楽一瞬大きなり、すぐに小さく。

 

 

  

  

「物事はちょっと考えてしゃべれよ」

「なんやねん」

  

  

  

  

  

  

「きみのお父さんと娘がいっしょになれば、これはおじいさんと孫がいっしょになっとんねん」

「さよう、さよう」

  

  

  

  

  

  

血が濃いからいかんやろ

「血のつながり、あらへん」

  

  

  

  

  

 

「なんでやね、きみのお父さんと娘やろ」

「娘やけど、ぼくの嫁はんのつれ子や、うちの女房はね、ぼくんとこくるまでに結婚しとって、ほいで子どもがでけた。ほいで亭主に死なれて、その子をつれてこっちへきた」

 

 

 

 

 

 

「それを先に言わんかい」

「できた孫ちゅうのは女の子でな、もうこのごろ、ニコッと笑うようになって、初孫って可愛いもんじゃ、おい」

 

 

 

  

  

  

「誰の孫やねん」

「誰の孫て、たとえ義理でもぼくの娘にできた子や、ぼくの孫やないか」

  

  

  

  

  

  

「そやけど、娘の婿はきみのお父さんやろ」

「そうや」

  

 

 

  

  

  

「そんなら、でけた子はきみとは兄弟やないか」

おい、そんなややこしいこと言いな、きみ!

  

  

  

 

お待たせー。

お待たせー。

 

 

お母さん、用意出来たでぇ!

 

 

 

 

用意出来たよ!

 

あと5分待って!

 

  

 

 

 

 

あと5分待ってぇやー!

 

(一拍空けて) えぇ!?

(一拍空けて) えぇ!?

 

●音楽、大きくなる。
●4人、口々に呟く。
「家族はロマンティックである。五分五分の賭けだから。家族はロマンティックである。勝手気ままだから。家族はロマンティックである。それがそこにあるから」


●4人、中央に集まってくる。

●音楽フェイドアウト。

「シャッ、シャッ、シャッ、」「トン、トン、トン」「ピーッ、ピーッ、ピーッ」

(囁き)ボーイフレンド?なんや、そんな話聞いてへんで。あいつ彼氏できたんか?

 

 

 

 

(囁き)ゴハンと味噌汁と肉じゃがを装う。味噌汁にはネギをのせる。「いただきます」

 

(囁き)今日ん夜は何が食べたかね。お母さんもたまには休みたかけん、どっか食べ行くね?お父さんよかろ?

 

(囁き)へー、片思いがようやく実った?入学したときからずっとその先輩のことを想ってった?で、いつからのお付き合いや?

 

 

 

 

 

父のすぐ後は、熱すぎて入れません。そうそう、最近、家庭でもミストサウナ付けられるんですよね。あれ、憧れ。

 

 

あ、懇親会の日程、先生に聞いといてね。でないとお母さんもいつでん休みとれる訳じゃなかけんね。はよ言わなん、こっちも都合があるたい。

 

 

しゃべっとるヒマがあったら、勉強しろって言うんや。お、やっと起きて来たか。はよ支度せえ。ええか。

 

 

 

 

 

神棚。「パンッ、パンッ」(今日も一日皆が無事でありますように。)「パンッ、パンッ」

 

 

はい。ごはんよー。

 

●音なし。

「家族をロマンティックにするもの。火の様な可能性で満たすもの。それは、我々が好きでないもの、思いも寄らないものにも否応なしに立ち向かわざるをえないような、大きな、簡単な制限が設けられているということである。高慢ちきな現代人は、環境が気に入らないなどと言っているが、そんなことを言ったところで始まらない。ロマンスの中にいるというのは、とりもなおさず、気に入らない環境の中にいるということなのだ。この世に生まれたということは、気に入らない環境に生まれた、したがってロマンスの中に生まれたということなのだ。
家族は常に物語である。日没のたびごとに、火のような文字で書き記されているのは、「次に続く」という言葉なのだ。」

 

 

 

●音楽、フェイドイン。
●ゆっくりとファイルを置き、各自、振り返り、礼。

●終わり。