民族服とはなにかとたずねられても、答えるのはそれほど容易ではありません。なぜなら、世界の衣服とはなにかとたずねられているのと同じだからです。衣服は、その国その地域で用いられ方が多様です。
インドのように、現在でも大衆の日常に根深く生きている例もあれば、都会ではほとんど忘れられ、地方の伝統行事などで観光的に着用されるというケースも多くあります。そして民族服は―それはなにも服装にかぎりませんが―いつもすこしずつ変化し、新しくなり、ときには大きな変貌を遂げもします。もし民族服がそういう変化を求めなくなったとしたら、おそらくそれは、その民族服自体が民衆にとって過去のものになっている、ということになるでしょう。
大阪樟蔭女子大学 高橋晴子
チェコの女性の晴れ着
チェコ東部、モラバ地方の女性の晴れ着。ペチコート、ブラウス、ベスト、衿飾り、スカート、エプロン、ウエスト飾り、ヘッドドレスからなる。田中千代が駐日チェコ大使夫人に依頼して購入したもの。
ブルガリアの女性の晴れ着
ブルガリア、ブヤ・スラティナの女性の晴れ着。スラブ色の濃い衣装で、19世紀後半ごろのもの。主として、ドナウ川流域のブルガリア側の平原から、バルカン山脈の斜面にかける地域にみられた衣装。
田中千代が1940年にブエノスアイレスのオークションで入手し、1976年にブルガリアを訪問したさい、現地の衣服であることをようやく確認できたという。
ブラジルの祈祷師の衣装
ブラジル中部に住む先住民カラジャの人びとが満月の夜に踊る儀礼で、祈祷師が着用する衣装。木の皮製。袖付、袖口、裾は植物の蔓をよりあわせたもの。
ハンガリーの牧童のコート
ハンガリー東部、ビハール地方のもの。ハンガリー牧童にとって、コートは晴れ着ともいうべき豪華なもの。コートの袖に腕を通すことはなく、マントのように羽織ったり、衿先を手でもったりして粋に着こなす。
ハンガリーのバーで、牧童がこれを着て踊っている姿をみて、翌日、本人の家で手に入れたはいいが、出国の際、骨董品のもちだしはできぬと税関で止められ、古着だと説明してようやく通関できたといういわくつき。
ボリビアの女性用衣装
ボリビア、ラパス県の女性用衣装。
フィンランドの女性用衣装
アントゥレア地方(現在はロシア側に含まれる)の女性用衣装。
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