巻頭コラム
- World Watching from Paris 2011年7月22日刊行
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三島禎子
● ケ・ブランリ美術館の「ドゴン展」
セーヌ川のブランリ河岸に位置するケ・ブランリ美術館は、透明で高い正面の塀越しにエッフェル塔を望み、建物はコケやシダで覆われ、入り口へのアプローチもまた異国情緒たっぷりの植物園を演出している。現代文明の象徴としてのエッフェル塔と、原始林を思わせる趣きが、いかにも「原始美術」(プリミティブ・アート)に特化した美術館であることを主張しているかのようだ。
この美術館は、シラク大統領の在任中に、ルーブル美術館の原始美術部門とともに開設された。30万点におよぶ収蔵品は、人類学博物館と国立アフリカ・オセアニア美術館の研究資料であったが、これらを民族学や考古学の資料とみなすか、または芸術品として展示するのか、あるいは原始美術そのものの定義や有用性についてなど、建設当初から大きな論争が続いている。
展示を訪れていたのは、欧米系の観光客とフランス人がほとんどである。入場制限をするくらい大勢の人が来ていたが、アフリカ系の観客は目につかなかった。展示品には紀元前の考古学資料をはじめ、木製の彫像では古くは10世紀頃のものもある。大部分が借用品であり、アメリカとフランスの博物館や美術館、個人収集家の所有になっている。
彫像は透明のアクリルケースに収められ、整然と展示されている。仮面はバランスよく3次元の空間に配置されて、部屋ひとつがアートになっている。
これらを見て、人びとは何を感じるのだろうか。少なくとも、ケ・ブランリ美術館が創設時の思想に沿ってモノを民族文化の表象としてではなく、美術品として展示をおこなっていることは確かである。その強烈で明確な主張は、「文化を収奪した側による希少な文化の保全を、美術や芸術という権威によっておこなおうとする傲慢な姿勢」であるとの批判もある。美術館を出てくる人びとを眺めながら、展示のメッセージに対する反応を聞いてみたい思いに駆られた。
三島禎子(民族社会研究部准教授)
◆関連ウェブサイト
ケ・ブランリ美術館(フランス語)
ケ・ブランリ美術館(英語)
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