インドネシアのジャワ島でも人々の生活はどんどんせわしくなっている。だが、一晩中演じ続ける芸能は、まだ健在だ。
人形芝居「ワヤン・ゴレック」は、夜8時ごろ、伝統的なアンサンブル、ガムランの演奏とともに始まる。人形つかいの後ろに控える音楽家たちは、明け方近くまで、ほとんど休みなく演奏を続ける。
上演に先立って演奏曲を打ち合わせることはない。どんな場面でどんな曲を演奏しなければいけないのか、ベテランの演奏家は熟知している。いつなんどきでも、人形つかいの語りや演技から演奏すべき曲を読み取り、一瞬の合図に合わせて演奏を始める。だから、音楽家にとって、一晩の上演は緊張の連続だ。
だが、曲と曲の間のわずかな隙(すき)に、甘いコーヒーやスナック、タバコなどが回されると、彼らはとたんにくつろぎ始める。おしゃべりを始め、女性歌手にちょっかいを出す。道化の人形が登場すると、観客と一緒に、いやむしろ観客以上にやじを飛ばして楽しむのだ。
それでも、人形つかいの合図があると、次の瞬間には、また演奏を始めている。緊張の中のくつろぎ、これこそが彼らの演奏を生き生きさせているのかもしれない。
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