国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱくのオタカラ

今月の見てみんサイト  2004年6月18日刊行
飯田卓

● 民博のサイバー地理学

サイバー地理学という学問領域があるそうだ。インターネットその他のIT技術で結ばれた情報の網の目を、サイバー空間という言葉どおり空間に見立てて、情報の分布のようすを地図のように視覚化するというのである。

百聞は一見にしかず。そうしたサイバー地図を見てみよう。もっとも単純なものは、いわゆるサイトマップである。たとえば民博のホームページには、サイト全体を展望するため、次のようなサイトマップが用意されている。読者は御存知だっただろうか?

これは地図というより、一覧表に近い。情報(コンテンツ)が多くなりサイトの構造が複雑になると、より多く視覚効果を盛り込んだ「地図」が必要になる。下のページを入り口とするサイトは、Java言語を用いてそのような視覚表現を実現している。
<http://www.media.k.u-tokyo.ac.jp/~takemura/>

サイトマップに用いられる視覚表現の実例としては、このほか、次のページを参照してほしい。
<http://www.cybergeography.org/atlas/web_sites.html>

サイトマップは、いわば、サイト管理者みずからがサイト全体を見晴らすために作った見取り図である。これに対して、複数のサイトにまたがるサイバー空間を見晴らすものもある。この見取り図の作成により、サイト管理者は、サイバー空間上における自分のサイトの位置を再認識し、ときには予想外の発見をすることもある。この種の見取り図こそ、「サイバー地図」の名にふさわしいのではなかろうか。

たとえば下のサイトでは、300万件近いサイトをジャンルごとに分類し、南極大陸の地図上に配置している。
<http://maps.map.net/>

言ってしまえば、検索サイトのカテゴリ別一覧を地図上に配置したわけだが、国家による干渉のない南極大陸に配置したところが面白い。利用者は、この地図の一部を虫眼鏡でどんどん拡大して見ながら、特定の分野のサイトに関する情報を集めることができる。

次に掲げる「アネモネ」という名の地図は、サーバへのアクセス記録を参照して、利用者がどのサイトからのリンクを通じてサーバにたどり着いたかを分析し、関連サイトを平面に配置していった結果をあらわしている。
<http://acg.media.mit.edu/people/fry/anemone/index.html>

分析が進むにしたがって進化していくようすがわかり、面白い。民博のサイトを起点にしてアネモネを描くとどのような形になるのだろうか?アネモネに関する「比較的」わかりやすい解説は、↓を参照。
<http://www.cybergeography.org/atlas/fakevbns_large.gif>

さて、こうしたサイバー地図、民博とはいっけん無関係に思えるが、少なくとも関係者にとっては大きな問題である。サイバー空間上のどのような立地に「バーチャルな民博」を位置づけ、どのような客を呼び込むのか?あるいは客を呼び込むことは当面考えずに、サイバー空間の片隅で記録を伝承していくことを最大の課題とするのか?また、そうした「バーチャルな民博」と、吹田市千里万博公園の「リアルな民博」は、どのように連携し役割分担していくのか?

これらの方針は、当然、サイバー戦略の一環であるメールマガジンの発行にも大きく影響する。つまり、利用者側の問題でもあるのである。 御意見をお持ちの方は、ぜひともお寄せいただきたい。

※(参考文献)武邑光裕『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』東京大学出版会、2003年

飯田卓(民族文化研究部助手)