国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

あいまいさの文化(7) ─ 鍛冶屋 ─

異文化を学ぶ


鉄製品を作る鍛冶屋については、世界のあちこちの民族の神話の中で語られる。例えば西アフリカのドゴン族の神話で、鍛冶屋は鎚(つち)に穀物の種を入れて天から降り、人々に火の作り方や農業、牧畜、料理を教えた「文化英雄」として登場する。モンゴルのチンギスハーンの伝説のように、鍛冶屋は英雄や王とも密接なつながりを持ち、我が国の八幡神も鍛冶の神さまとの説がある。他方で鍛冶屋は超自然的な力を持つ者として、普通の人々から恐れられ社会的に遠ざけられる存在でもある。

こうした鍛冶屋に関する相矛盾する伝承は、鉄が人類の文明史にもたらした大きな影響を表しているといえる。それとともに技術がもたらす恩恵と危うさという問題を、神話の世界から語りかけてくれている。

国立民族学博物館 田村克己

毎日新聞夕刊(2006年1月25日)に掲載