国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

もてなしのかたち(4) ─ 「お持ち帰り」でもてなす ─

異文化を学ぶ


南太平洋のバヌアツの離島トンゴアでは、主食のヤムイモなどを焼き畑でつくる。人々は焼き畑を開く作業を共同で行うことが多い。木を切り倒し、火を入れる作業が終わると、畑の持ち主は普段あまり食べられない鶏肉などを使った夕食をふるまい、協力してくれた人々をもてなす。

食事の前にはカヴァという飲物が出されることがある。飲み進むと心地良い酩酊(めいてい)状態にみまわれ、やがて眠気に襲われる。これを飲み過ぎ、せっかくのごちそうをその場で口にできなくなる者もいる。しかし心配御無用。そんなやからにも「お持ち帰り」用のごちそうが必ず取り分けられてある。たとえ酩酊状態にあろうとも、全員に食べ物を行き渡らせること。もてなす側にとってはそれが肝心なのである。

国立民族学博物館 白川千尋
毎日新聞夕刊(2006年12月27日)に掲載