国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

World Watching from Fiji  2012年2月17日刊行
丹羽典生

● 首都の辺縁にて少数民族を考える

2011年の12月から、フィジーにおけるメラネシア系少数民族を対象に新たな調査を始めた。フィジーは西にソロモン諸島、ヴァヌアツというメラネシア諸国、東にポリネシアのトンガに囲まれた、メラネシアの東端に位置する島国である。フィジーはかつてイギリスの植民地下におかれた時代に、近隣のメラネシア諸国から移民労働者を招き入れたため、現在、複数の民族が暮らす多民族国家となっている。

あらたな調査を始めたきっかけは、かつて調査したソロモン諸島移民の生活の在り方が興味深かったからであるが、今回の目的は、調査のかたわらで時折小耳に挟んでいたヴァヌアツ系移民について調べてみることにあった。とはいえフィジーに足を運ぶようになって10年以上になるが、ヴァヌアツ系移民の子孫とはこれまで数名にしか出会ったことがない。彼らに関して書かれた書物も存在していない。そのため、彼らはすでに事実上ほかの民族に同化吸収されたものと思っていた。

今回フィジーに滞在している間に、これまで耳にしていた地名をたよりに、彼らのかつて生活していた地を順番に歩いてみた。すると時代を下るにつれて、まさに首都の辺縁に向かって徐々に移動していく彼らの姿が明らかになった。そして、移転先にて、予想外にも、ヴァヌアツ系移民の子孫の集落を発見することができた。まさかヴァヌアツ系のアイデンティティをもつ人びとが、身を寄せながら生活しているとはうれしい誤算であった。

しかも彼らによると、近年ヴァヌアツ高等弁務官事務所がフィジーにおかれたように、フィジー政府とヴァヌアツ政府の関係が近しくなったことを契機に、100年以上の時を経て本国とのネットワークが復活しはじめたとのことである。彼らがフィジーに定着した歴史的過程はもとより、こうしたまさにグローバルな展開を含めた彼らの今後について、何が明らかにできるか今から楽しみにしている。

丹羽典生(研究戦略センター助教)

◆関連ウェブサイト
フィジー大使館(日本)
フィジー共和国(日本外務省ホームページ)