労働と宗教(7) ─アーミッシュの仕事と遊び─
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アスファルト道路に蹄(ひづめ)の音が響いてバギーが走り、青空に地味な色の洗濯物がはためく。米国にあるキリスト教再洗礼派アーミッシュの人々の村だ。
迫害を逃れ18世紀に欧州から移住した。現代文明に批判的で、テレビや電話を使わず、自動車も持たない。高等教育を受けず非暴力主義を貫く。理想の職業は神が用意した大地を耕す「農夫」。トラクターを使わず仲間と仕事を分かち合う。「弁当箱」を嫌い、三度の食事を家族と取る。「時」をデザインするには農夫が一番で、何よりも子どもの教育に農業は最適だと考える。親と一緒に働くのは、ライフサイクルの中で将来を考える貴重な時間だ。
そんなアーミッシュにとって、仕事を休むことも重要だ。日曜は家庭で行う礼拝日で、手作り料理をたっぷり食べて会話を楽しむ。社交も大切な務めだ。集まって共同で行う活動は、神の意志である相互扶助の基盤でもある。
女性たちがおしゃべりしながら縫いあげる「キルト」は、収益を世界の被災地や紛争地に送る。キルトは「分離」を信条とするアーミッシュが世界とつながる方途の一つだ。仕事と遊びが混じりあった暮らしを守ることが、目立たず「埋没」してすべての人にあまねく光があたるという神意にかなう務めを果たし、コミュニティーを持続させている。
国立民族学博物館 鈴木七美
毎日新聞夕刊(2008年5月14日)に掲載