みんぱくのオタカラ
- 大村しげの長火鉢 2012年4月20日刊行
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久保正敏
京都のおばんざいなどの料理研究家でエッセイスト、大村しげの住んでいた中京区の家には、簡単にはモノを捨てないご本人の性格からか、家財道具や生活用品など、15,000点以上のモノが残されていた。後世の研究に役立てたいというご本人の遺志にそって、2000年に民博に寄贈された資料群は「大村しげコレクション」と名付けられら、武庫川女子大学の横川公子教授を中心とする4年にわたる共同研究で詳細に調査された。
このたびの特別展「今和次郎 採集講義―考現学の今」では、国内で展示されたことのなかったこの資料のほんの一部を使って、大村しげの暮らした空間のうち、彼女が普段、居間として使っていたナカノマを再現展示する。その空間にある道具類は、おそらく彼女の最も頻繁に使ってきたモノたちだろう。その中から、長火鉢を取り上げてみたい。
それは大村しげの母親譲りのもので、いつも母が湯を沸かし、小鍋で煮物を作っていたものらしいが、大村しげ本人は朝食をとるのに使う程度であまり使うことはなかったものの、彼女のエッセイには、「もう、昔ほど役には立っていない長火鉢。それでもないとさびしいし、第一、わたしが母を思う場でもある。」「台所にでんとすえてある長火鉢は、もう使うことものうなったのに、これがないと部屋の格好がつかないのである。わたしの心のよりどころやろうか。」などの記述がある。
これは、モノの記録とともに大村しげの記述を渉猟した共同研究の中から見えて来た、モノにまつわる物語であり、モノの詳細な調査を出発点として、その背景である生活文化をあぶり出す、考現学の一つの形と言えるだろう。
久保正敏(文化資源研究センター教授)
◆今月の「オタカラ」
標本番号:H0240430 / 標本資料名:長火鉢◆関連ページ
特別展「今和次郎 採集講義─考現学の今」(2012年4月26日~6月19日)
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