みんぱくのオタカラ
- ネパールのビーズ“ジー” 2012年6月22日刊行
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南真木人
チベット語およびネパール語で、ジー(dzi)。これは乳白色のメノウに加工を施して部分的に褐色に染め、色づけされていないところが文様として残る宝石のことである。ネパールのチベット系の人びとは、これをビーズにして首にかけ、魔除けや邪視除けとして用いたり、幸運をもたらすものとして珍重したりしてきた。文様は「目」と呼ばれる円や線などからなり、目の数が多いほど価値が高いとされる。
ネパールの人びとの多くは、ジーは文様のある自然石を研磨したものだと信じている。無理もない。ジーを作るローカルな技術は消失しており、誰も加工の現場を見たことがないのだ。となると、ジーは古物として流通しているほかない。
ところが、いつ頃からかは定かでないが、工業製品のジーが出回りはじめた。台湾や中国で、このジーが「(西蔵)天珠(てんじゅ)」と呼ばれるパワー・ストーンとして注目され、生産されるようになったためだ。今日では、1個数10万円もする古物ジーのマーケットに、数千円に過ぎない工業製品のジーが混ざりあっている。だが、私にはいずれも人造である新旧のジーを見分ける自信はない。
さて、みんぱくが所蔵する2つのジーは、1958年に「西北ネパール学術探検隊」(隊長 川喜田二郎)によってネパールのドルパ郡で収集されたことが分かっている。つまりこれは半世紀前の資料であり、工業製品のジーが登場する以前のものである可能性が高い。その超自然的パワーのほどはさておき、みんぱく所蔵のジーは間違いなく「みんぱくのオタカラ」の1つに数えられよう。
南真木人(文化資源研究センター准教授)
◆今月の「オタカラ」
【左】標本番号:H0029678/資料名:首飾り(飾りのみ)
【右】標本番号:H0029143/資料名:首飾り◆関連ページ
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