国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

Arabian Nights Countdown !  2004年8月19日刊行
山中由里子
・Contents・
【1】Arabian Nights Countdown ! →21夜
【2】みんぱくゼミナール「多民族NPOとNPO研究最前線」
【3】みんぱく動物園・てんのうじ動物園 夏休み共同イベント
【4】研究公演「アラビアンナイトのしらべ-アラブの古典楽器を聴く-」
【5】みんぱく映画会「21世紀のアラビアンナイト」
 ☆編集後記

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【1】Arabian Nights Countdown !
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● アラビアンナイト大博覧会まであと 21夜!
みなさんがオリンピック観戦に夢中になっているいまこのとき、アラビアンナイト大博覧会の準備は最後の力走に入りかかっています。残すは、あと3週間!

今回のカウントダウン・エッセーは、現在カイロ・アメリカン大学でアラブ世界の女性と服装について研究中の後藤絵美さん(東京大学大学院・博士課程)にお願いしました。特展第2部の「シェヘラザードの世界」の展示企画では大活躍してくれました。

◆シェヘラザードの世界―過去から現在へ、物語から現実へ

後藤絵美

千と一夜に渡って語り続けられる『アラビアンナイト』が、どのようにはじまるかご存知でしょうか。昔、あるところにシャフリヤールという名の王がいました。王はふとした拍子に、自分の愛妻が密通していることを知り、極度の女性不信に陥ります。自暴自棄になった王は、毎晩一人ずつ処女を召し寄せ、明け方になると殺すという残虐な行為をはじめます。そうすれば、二度と「女」どもに欺かれることもないからです。

やがて、そのような王の暴虐をやめさせ、罪のない娘たちを救うため、一人の女性が立ち上がります。それがシェヘラザードです。最初の晩、王の御前に召されたシェヘラザードは、世にもめずらしくおもしろい物語を話して聞かせます。しかし、話が佳境に入ったところで朝日が差しはじめたため、シェヘラザードは「続きはまた」と口をつぐんでしまいます。話の行方が気になるシャハリヤール王は、彼女を殺すことができないまま、二夜目を迎えるのです。

*  *  *
こうして、シェヘラザードが語り始める『アラビアンナイト』の中には、いろいろな女性が登場します。男性に扮して大冒険する女性、驚くような悪だくみで人々を陥れる女性、あらゆる学問を習得し、男性学者を言い負かしてしまう女性、わが身を投げ打って愛する男性に尽くす女性。彼女たちは物語の中で雄弁に語り、大いに怒り、笑い、泣くのです。

ところが、そんな元気な『アラビアンナイト』の中の女性たちに比べて、現代の日本人がイメージする中東女性はずっと寡黙で、ややもすると悲しげですらあるようです。パレスチナやイラクで涙に暮れる母親や少女、タリバンが去っても「ブルカ」を取らないアフガンニスタンの女性たち、全身を黒いチャドルで覆うイラン女性の苦悩。わたしたちのところに届く、中東のほんの一角を映し出した映像やニュースが、シェヘラザードのように現代版「アラビアンナイト」を語るのです。

また、中東に対してエロティックな幻想を抱く人もいます。ベールの下にひそむ美女、悩ましげな女性たちが横たわるハレム、官能的な腰つきで男性を魅了するベリーダンス。中東は遠く、さらに、その周囲には分厚い「神秘のベール」があり、わたしたちの視界を遮っているかのようです。いったい、そこではどんな女性たちが、どんな暮らしをしているのでしょうか。彼女たちの喜びとは、悲しみとは何でしょうか。伝統や信仰、新しい科学技術、モダンな考え方や暮らし方が、彼女たちの生活にどのような影響を与えているのでしょうか。

今回の展示では1948年以前パレスチナのバリエーション豊かな女性衣装や、1950年代のある「ハレム」の再現、ムスリム女性のベールの時代的・地域的な変容、ベリーダンスの系譜と広がりを辿ることを通して、中東と聞いて抱くさまざまなイメージのうち、何が真実で、何が歪められているのかを、ひとつひとつ確かめていきたいと思います。

*  *  *
千と一夜の間、シェヘラザードの物語を聞きながら、シャハリヤール王はようやく気づくのです。なんと、世の中には実にさまざまな女がいるものだ、と。

後藤さんの留学体験やベール研究にかける意気込みなどがつづられているサイト

   〈http://www003.upp.so-net.ne.jp/fuimei/

特展会場には、カイロの市場で売られている現代の服を試着するコーナーをつくりました。主に女性の外出着とベールを取り揃えており、ミュージアム・パートナーズが試着をお手伝いいたします。

イスラム女性というと、ベール、すなわち抑圧された女性、というイメージがありますが、その着用の歴史と実情は?我々日本人は、宗教心と政治とファッションの関係をあまり意識せずに毎日服を着ています。ベール試着コーナーでは、イスラム教徒の女性はなぜベールをかぶるのだろう、という疑問から、服飾文化と宗教について考えるきっかけになればと願っています。

もちろん、最新のカイロ・ファッションをとりいれた、おしゃれなかぶり方を楽しんでいただくだけでも結構です!男性も一度はお試しあれ。

山中由里子

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【2】みんぱくゼミナール「多民族NPOとNPO研究最前線」
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87カ国の学会員を持つ、国際NPO/NGO学会次期会長で、かつ、政府税制調査会特別委員、非営利法人課税ワーキング・グループ委員の出口正之が、文化人類学とNPO(非営利団体)あるいはNGO(非政府団体)との接点を、豊富な事例を紹介しながら、解説します。87 カ国の組織は、様々な宗教、民族の人々が、参加しています。そこで生まれる規範、合意された規則などは、どのようなものが支配的になるのでしょうか?アラブ人とイスラム教徒がひざを接しながら組織を運営していくことも度々あります。9.11の影響はどのような形で、こうした真の「国際的な組織」に影響を与えているのでしょうか?長い歴史を持つみんぱくゼミナールで NPOについて初めて真正面からお話いたします。

講 師:出口正之(文化資源研究センター教授)
日 時:8月21日(土)14時開演
場 所:民博 講堂
参加方法:聴講無料。事前のお申し込みは不要です。

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【3】みんぱく動物園・てんのうじ動物園 夏休み共同イベント
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よくばりゾウ体験  ~ふたつの動物園のゾウに会える!~

NTTドコモのFOMA回線を利用したテレビ電話で、てんのうじとみんぱくの二つの「動物園」を双方向に結ぶ交流イベントです。当日はゾウにスポットを当て、ゾウのライブ映像や人との深いつながりをうかがわせる世界の民族資料をとおして、その生態や人との関わりについて考えてみたいと思います。会場からの質問もドシドシ受けつけます。てんのうじ動物園からは竹田獣医師、みんぱくからは野林助教授がわかりやすくお話します。

日 時:8月22日(日)13時、14時、15時(3回開催、各回約20分)
場 所:てんのうじ動物園→熱帯雨林ゾーン展望シェルター
    みんぱく→「みんぱく動物園」展示場内
参加費:てんのうじ動物園→入園料:大人500円
    (中学生以下、65歳以上の方ならびに身体障害者手帳等をお持ちの方は無料)
    みんぱく→常設展示場観覧料
協 力:(株)NTTドコモ関西
問い合わせ:
天王寺動植物公園事務所   TEL:06-6771-8401
国立民族学博物館情報企画係 TEL:06-6876-2151

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【4】研究公演「アラビアンナイトのしらべ-アラブの古典楽器を聴く-」
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アラビアンナイトの物語のなかに、しばしば登場するアラブの古典楽器、カーヌーン、ウード、ナーイに、リックやダラブッカなどの打楽器をまじえ、その独奏や合奏をとおして、かつてバグダードの宮廷で、歌舞とともになりひびいた音楽をしのびます。特別展「アラビアンナイト大博覧会」関連イベントです。

日 時:2004年9月23日(木・祝)13:30~15:00(13:00 開場)
会 場:国立民族学博物館 講堂
出 演:エリー・アシュカル(カーヌーン奏者)
    ル・クラブ・バシュラフ
解 説:水野信男(兵庫教育大学名誉教授)
参加要領:
往復はがきに住所・氏名(返信用おもてにも)・年齢(任意)・電話番号・参加希望人数(本人を含め4名まで)・「9月23日研究公演」と明記のうえ、9月9日(木)(当日消印有効)までにお申し込みください。
応募者多数の場合は抽選となります。本研究公演は、参加無料です。

お申し込み・お問い合わせ先:
〒565-8511 吹田市千里万博公園10-1
国立民族学博物館 広報企画室企画連携係 TEL:06-6876-2151

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【5】みんぱく映画会「21世紀のアラビアンナイト」
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最新のフル3DCG技術を駆使して制作された「ヤング・シェヘラザード」と1940年イギリスで制作された「バグダッドの盗賊」を上映します。また「ヤング・シェヘラザード」を制作したモンキー・パンチ氏(漫画家)とおおすみ正秋氏(映画監督)のトークもあります。

日 時:2004年10月3日(日)13:30~16:30(開場13:00)
場 所:国立民族学博物館 講堂(定員450名・先着順)
参加要領:映画会は申し込み不要、参加無料ですが、特別展・常設展の観覧には別途、観覧料が必要です。
問い合わせ先:広報企画室企画連携係 TEL:06-6876-2151

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☆ 編集後記

お盆もすぎたというのに、まだまだ蒸し暑い夜が続きます。こんな夜は怪談話でひんやりと、もいいのですが、やっぱり、みんぱくはアラビアンナイトをお勧め。でも、シェヘラザードに夜のおとぎ話をされたら、どきどきしてきっと眠れなくなるなと心配するのでした。

野林厚志(編集長)