みんぱくのオタカラ
- 掌中劇用指人形(牛魔王) 2009年1月14日刊行
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横山廣子
「西遊記」は京劇で人気のある演目の一つだが、中国で「掌中劇(しょうちゅうげき)」と呼ばれる指人形芝居でも演じられる。掌中劇の人形は、頭(かしら)に袋状につくった衣装をつけ、袋の中に手を差し入れて演じるもので、「布袋劇(ほていげき)」ともいう。これは火焔山付近で孫悟空と死闘を繰り広げる敵(かたき)役、「牛魔王」の人形である。牛魔王は花果山で頭角をあらわした孫悟空と義兄弟の契りを交わした間柄だが、三蔵法師一行が火焔山を越えるために鎮火力のある芭蕉扇を牛魔王の夫人、鉄扇公主から奪おうとする時、悟空の前に立ちはだかる。猪八戒に化けるなどさまざまに変化(へんげ)して悟空を悩ませる牛魔王は、強大な悪役である。牛は中国社会では大きく、力のある家畜として尊重され、古代から信仰の対象にもなってきた。しかし他方、日本と同様、黙々と艱難辛苦に耐え、誠実で、時に愚鈍でさえあるイメージも与えられている。心なしかこの牛魔王の頭にも「人の好さ」がただよっている気がする。
横山廣子(民族社会研究部)
◆今月の「オタカラ」
標本番号:H0100915 / 標本名:掌中劇用指人形(牛魔王)
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