巻頭コラム
- 世界ろう者会議と手話通訳者 2015年12月1日刊行
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相良啓子
世界ろう者会議は、4年に一度開催される国際的なろう者の集いである。ろう者の言語である手話の各国における地位、ろう者・ろう児の教育に関する問題や課題、アジア・アフリカ諸国のろう者の人権問題などといったテーマが幅広くとりあげられ、世界各国から多くの関係者が参加する。第1回は、1951年にローマで開催され、それから4年おきに開催国を変えて継続されてきた。第11回の国際会議は1991年に日本で行われ、これをきっかけに、東京では聴覚障害者への理解や宿泊施設のバリアフリー化が進んだという。この時ボランティアとして初めてこの会議に参加した私は、国際手話の通訳者として、聴者と同様にろう者も活躍していることを知った。今年の夏には、トルコで開催された第17回世界ろう者会議で研究発表をする機会に恵まれた。
このような国際会議の場の手話通訳はどのように行われているのだろうか。トルコでの会議では、ろう者と聴者の連携による通訳体制が整っていた。舞台には聴者だけでなく、ろう者も立つ。発表が音声言語で行われる場合、「フィーダー」と呼ばれる、いわば中継ぎの通訳者が発表者の向かい側にすわり、音声言語を手話言語に通訳する。このフィーダーの手話を見て、舞台上でろう者が会場向けに通訳する。もちろん、フィーダーの手話をそのままコピーするのではなく、内容に沿って、より手話として適切な表現を表出するのである。発表言語が手話の場合は、ろう者がフィーダーを務める場合もある。
手話を第一言語とするろう者の通訳は非常にわかりやすい。トルコでの世界ろう者会議のろう通訳者の一人に、フィンランドでろう通訳の会社を経営している社長で、大学で通訳学を学び修了された方がいた。視線の使い方などがとても自然であり、この巧みな技術は通訳者同士のチームワークによるものだが、まるで自身が話しているかのような見事な通訳を行っていた。
「通訳」には、音声言語と音声言語間だけでなく、音声言語と手話言語の間にも共通するプロセスがある。それぞれのことばが持つ意味に基づいて表現方法を変換するため、意味の土台となる「文化」の違いに対する理解が必要になるということである。みんぱくでは、来年1月に「通訳学☆最前線セミナー」を企画している。ぜひご来場いただき、内容を聞いていただくと同時に、「手話通訳」の社会的な位置付けを考えるきっかけにしてもらえたら嬉しい。
相良啓子(先端人類科学研究部プロジェクト研究員)
◆関連写真
トルコにおける第17回世界ろう者会議開会式:
左が国際手話通訳(ろう者)、右がトルコ手話と英語の通訳(聴者)、真ん中が発表者(聴者)◆関連ウェブサイト
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