国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

フィランソロピー首都とディアスポラ・フィランソロピー  2016年2月1日刊行
出口正之

西アジア展示場には、「パレスチナ・ディアスポラ」と称するコーナーがある。「diaspora(離散)」は、特定の民族に対して用いられるわけではないが、Diasporaと大文字で固有名詞扱いになると、ユダヤ教徒が祖国を離れたことを意味する。悠久の時を経て、ユダヤ教徒がかの地に戻れば、そこから離れざるを得なかったパレスチナ人のdiasporaが始まった。この言葉を聞くといつも不思議な重層感を覚える。そのシンボルとしての衣装、「カワール・コレクション」の一部等が展示してある。

普通名詞化したディアスポラの用語は、広義には祖国を離れた人々にも使用されるようになってきた。「ディアスポラ・フィランソロピー」もその一つだ。「フィランソロピー」とは、ギリシア語の「フィル(愛する)」と「アンソロポス(人類)」を語源とし、世のため人のための専門的・組織的寄付活動のことをいう。フィルハーモニーやアンソロポロジー(人類学)とは語源を共有する語でもある。

昨年末には、フェイスブックの創設者マーク・ザッカ―バーグ夫妻がフェイスブック株の99%(現在の価値で450億ドル(約5.3兆円)に相当する寄付を表明、話題となったが、それはまさしく「フィランソロピー」である。皮肉なことに人類愛からほど遠い貧富の差の拡大が、「フィランソロピー(人類愛)」を呼び起こしてしまったのである。この語にも重層的な不思議さを覚えてしまう。それにしても、5兆円とは、気の遠くなる金額だ。

両者の語が合体した「ディアスポラ・フィランソロピー」とは、祖国を離れた人たちが祖国に対して寄付をすることをいう。イスラエルは寄付金の受領の多い国であり、米国から寄付される東ヨーロッパ、中国、インド等への「ディアスポラ・フィランソロピー」にも注目が集まっている。

大阪府市の特別顧問に就任した猪瀬直樹氏(作家・前東京都知事)が大阪の副首都構想について「フィランソロピー首都を目指せ」と提案した。みんぱくで西アジアの展示を見ながら、大阪の将来について思いを馳せるのも粋なもんだと思うが、如何だろうか?

出口正之(民族文化研究部教授)

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みんぱくの「パレスチナ・ディアスポラ」コーナー

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西アジア展示