巻頭コラム
- サツマイモの贅沢~パプアニューギニア~ 2017年3月1日刊行
-
深川宏樹
2007年、私はニューギニア高地エンガ州のサカ谷で調査を行った。現地語で「緑の谷」を意味するこの地には、その名の通り青々と茂った木々と実り豊かな畑が一面に広がる。この土地で暮らす人々にとって欠くことのできない食べ物、それがサツマイモである。当時、村には米やカップ麺などの輸入食品が徐々に浸透しつつあったが、「やっぱり食べ物はイモがいい」と人びとはいっていた。その言葉の裏にあるものとは、何だろうか。
サツマイモは当地域の主食であり、村人は毎日サツマイモを食べる。というより、ほとんどサツマイモだけを食べている。むろん、豆や葉野菜、カボチャ、バナナなど、多彩な食材もあるのだが、食卓にのぼるのは圧倒的にサツマイモだけのことが多い。村人たちは、なんと20種類以上ものサツマイモを識別できるようだが、私が実際に見分けられ、味の区別がついたのはせいぜい4、5種類であった。それでも「これが同じサツマイモか!」と驚くほど、甘味や食感に大きな違いがあった。ある時、私は、茹でたイモがあまりにも甘かったので「これは何という食べ物だ?」と真剣に尋ね、その場にいた人たちに「お前はイモも知らないのか?」と爆笑されたことがあったほどであった。
サツマイモの調理法は、普段は、薪木をくべた灰のなかにイモをつっこんで火を通す「灰焼き」か、鍋で水煮にするかのいずれかである。ただ、何らかの祝い事などの際には、地面に穴を掘り、石を熱して入れて、そこにバナナの葉で包んだイモや豚肉をならべ、上から土をかぶせて蒸し焼きにする「地炉」で調理する。地炉の中で焼き石に接したサツマイモには「お焦げ」ができるため、何とも言えないおいしさがある。豚肉の脂が染み込んだイモの味も、また格別なものだ。輸入食品よりも「やっぱり食べ物はイモがいい」という人びとの言葉の裏にあるもの。それは長いあいだ培ってきた、サツマイモの様々な味わい方と楽しみ方についての知恵なのだろう。
深川宏樹(先端人類科学研究部機関研究員)
◆関連写真
地炉で調理したサツマイモ、バナナ、葉野菜、鶏肉
サツマイモ畑
配信されたみんぱくe-newsはこちら powered by