国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱく映画会

2017年2月11日(土)
幸せのありか

チラシダウンロード[PDF:2.94MB]

国立民族学博物館では2009年度から、研究者による解説付きの上映会「みんぱくワールドシネマ」を実施しています。8年目の今期は<出会いと創造>をキーワードに映画上映を展開していきます。今回は、民主化へと移行する時代を背景に、脳性麻痺を患っている少年の成長を描いたポーランド映画です。自分の意思と感情が明確にも関わらず、家族にも伝えられないでいる青年の視点を通して、健常者の障害者への理解について考えたいと思います。

  • 日 時:2017年2月11日(土)13:30~16:30(開場13:00)
  • 場 所:国立民族学博物館 講堂
  • 定 員:450名
    ※入場整理券を11:00から観覧券売場(本館2F)にて配布します。事前申込は不要です。
  • 要展示観覧券(一般 420円)
  • 主 催:国立民族学博物館
 

● みんぱくワールドシネマ 映像に描かれる<出会いと創造>
第36回上映会

幸せのありか Chce się żyć
2013年/ポーランド映画/107分/ポーランド語/日本語字幕付き
【開催日】2017年2月11日(土)13:30~16:30(開場13:00)
【監督・脚本】マチェイ・ピェブシツア
【出演】ダヴィド・オグロドニク カミル・トカチ
【司会】菅瀬晶子(国立民族学博物館准教授)
【解説】信田敏宏(国立民族学博物館教授)
「映画解説」

民主化へと向かう80年代から現在のポーランドを舞台に、脳性麻痺と闘う青年の目を通して、生きることの機微を見つめ、モントリオール世界映画祭で三冠に輝くなど、国際的に高い評価を受けた注目作。重度の身体的ハンディに阻まれ、明晰な意識を理解してもらえぬマテウシュだったが、朗らかな家族との暮らしや、部屋の窓から覗く人間模様にふれ、感受性豊かに成長していく。人生の師のように慕う父の死、孤独な文学少女との切ない初恋、そして、惜しみない愛情で介護を担ってきた母も高齢となり、施設への入居を余儀なくされる彼に、運命的な出逢いが訪れる。亡き友人の遺したドキュメンタリーに感銘を受けたマチェイ・ピェブシツア監督は、主人公の胸中をユーモア交じりに語る冷静なモノローグと、演者の迫真の身体表現とを対比させ、意思が伝わらぬ青年のもどかしさと、それでも働きかけ続ける強靭さを、丹念に映し出す。大切なものは、ありふれた日常の喜びや悲しみの中にこそ潜んでいることを、しみじみと噛みしめたくなる名篇である。(映画評論家 服部香穂里)

障害者の心

本作は実話に基づいた物語である。このマテウシュの物語は、たとえ重度の障害者であっても豊かな心を持っていること、そして、彼らの心の声に耳を傾け、心に寄り添うことこそが、彼らの人間としての尊厳を尊重することにつながる、ということに気づかせてくれる。また、本作には、理不尽な発達検査、兄弟姉妹との微妙な関係、周囲の無理解、性の問題、就学問題、青年期以降の生活の場、親の高齢化、障害者に対する差別や虐待など、障害者が生きていく上で経験するであろう数々のエピソードが挿入されている。これらは障害者本人のみならず障害者の家族の生きづらさや不安感、孤独感を増幅する大きな問題である。本作の舞台となるポーランドには、アウシュヴィッツ強制収容所があったことは周知の事実であるが、ナチス・ドイツは、ユダヤ人を迫害する前から、障害者を生きる価値のない存在として、大量に抹殺していた。こうしたナチスの優生思想は決して過去の遺物ではなく、今もなお生き残っている。相模原障害者施設殺傷事件を経験した私たちが、2013年に公開された本作を再び鑑賞することの意義は大きい。(信田敏宏)

映像に描かれる<出会いと創造>国立民族学博物館 鈴木紀

グローバリゼーションにともなう人と情報の地球規模の移動により、世界では移民や異なる文化をもった人びととの遭遇・接触・摩擦が増加しています。その結果、移民の排斥や狭小なナショナリズムの高揚など、異なる文化を持つ人に背を向ける傾向が一部に見られるようになってきました。これは異文化理解にもとづき人間の文化的多様性を探求する民族学/文化人類学にとって看過できない事態です。異質な他者との遭遇を、潜在的な脅威として否定的にとらえるのではなく、新たな文化の創造の機会として肯定的にとらえる「共創」の態度の涵養が重要でしょう。「出会いと創造」というテーマは、このような今日的課題に対する国立民族学博物館からのメッセージです。

■お問い合せ先
国立民族学博物館 企画課博物館事業係
〒565-8511 大阪府吹田市千里万博公園10-1
Tel: 06-6878-8210(土日祝を除く9:00~17:00)