国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

企画展「水の器-手のひらから地球まで」

企画展「水の器-手のひらから地球まで」
 
 
展示趣旨
手にした一杯の水。そこから想像を膨らませていこう。

 私たちは、のどを潤すために、器に入った飲み水を口元に運ぶが、手にした一杯の水は、どこから来るのだろう。日本ならば、水道の蛇口やペットボトルから来ることが多いだろうが、場所が変われば、川や井戸から汲んできた水や、雨水をためた甕からの水かもしれない。
 このように、人は、地域の環境に応じて、地下水や雨水、川などを水源とし、井戸や水汲み場、水道栓などを取水口にして水を利用してきた。水源から口元へと水がたどる道程で、人はさまざまな器を使い分けながら水と関わってきた。この水の道程は、身近な器、人工の器、自然の器と、多様な水の器で構成されており、水の器は、生態環境と人の暮らしを媒介している。
 人は、水なしでは生きていけないし、器なしには水を利用できない。器があるからこそ、水を蓄えることも分けることも可能になる。すなわち水の器は、人と人の関係をつなぐものとなる。時として人は、器の水に特別な意図を込め、またさまざまな意味を汲みあげる。
 人と自然、水と暮らし、人と人の関係を映すのが水の器である。こうした器を通して、水の問題を考えようと企画した今回の展示では、国立民族学博物館が所蔵する資料と総合地球環境学研究所での人と水の研究の成果を踏まえて、世界各地の多様な水の器を紹介する。「器」の字形に見立てて、「1.生活世界の身近な器」「2.多様な水源」「3.水の器・地球」「4.水のペットボトル」の4つのコーナーに分けて水の器を考えることにした。手元の水から水源へと遡り、水源に水をもたらす地球のメカニズムへ、そして手元の水へと戻ってくるように、水の道程に沿って4つのコーナーをつなげている。
 近年、「水の危機」が叫ばれ、水資源が地球環境問題として盛んに議論されるようになった。水に恵まれた日本にいると、水の欠乏や汚染が深刻化する地域の実状は想像しにくいかもしれない。だからこそ今、私たち誰もが手にする一杯の水から、暮らし、地域、世界、地球とのつながりへと想像を膨らませてみたい。
 誰しもが必要とする水が、どこでも同じように得られるわけではないからこそ、人びとが地域ごとに水との多様な関係を育んできたこと、そして、暮らしの中から新たな関わりを生み出していくことを、世界各地の多様な「水の器」は教えてくれるのだから。

水の器