国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱく世界の旅

イタリア(1) 『毎日小学生新聞』掲載 2015年8月22日刊行
宇田川妙子(国立民族学博物館准教授)
国家よりも長い町の歴史

イタリアの町は、丘の上に家々が密集して造られています=ローマ近郊で

イタリアの特徴の一つは、地域的な多様性です。工業が発達した北部と、遅れた南部という南北の差は有名ですが、それだけではありません。そもそも、北にはアルプス山脈があり、シチリアとサルデーニャという地中海の島もかかえ、気候も地形も場所によってずいぶんちがっています。

また、そうしたちがいに拍車をかけているのは、歴史です。

イタリアが一つの国になったのは1861年です。それ以前は、長い間、都市国家と呼ばれる小さな国々に分かれていました。例えば、ルネサンスが花開いたフィレンツェ、水の都ベネチアアなどです。それぞれの町には、イタリアという国家よりも長い歴史があり、さまざまな建物や芸術品などが残っています。


町で最も高い位置にあるのは教会の鐘楼=ローマ近郊で

カンパニリズモ

しかし、有名な都市だけでなく小さな町でも、習慣などはそれぞれ少しずつ異なります。人々も、自分が生まれ育った土地にほこりと愛着を感じています。イタリアでは、各町に対する愛着はカンパニリズモと呼ばれます。カンパニーレ、つまり、どの町にも必ずあって、それぞれの町の象徴になっている教会の鐘楼に由来する言葉です。

元々、イタリアは地中海につき出ている半島で、多くの民族や文化が行き交っていました。また、イタリア人自身が、アメリカや他のヨーロッパ諸国などに出かせぎや移民に出た時代もありました。現在でもその流れは続き、最近では、外国からの移民も多くなっています。その間ではあつれきも起きていますが、イタリアはいろいろな意味で多様な国なのです。


パンや菓子の作り方は町ごとで異なり、現在で町のパン屋では、伝統的なパンを見ることができます=ローマ近郊で
 

一口メモ

料理も地域的な多様性が大きく、定番のパスタは、元々は南が中心で、北はトウモロコシの粉から作るポレンタが主食でした。

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