国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱく世界の旅

カザフスタン(1) 『毎日小学生新聞』掲載 2015年9月19日刊行
藤本透子(国立民族学博物館助教)
牧畜に適した風土

羊、ヤギの群れを放牧する少年たち

カザフスタンは、中国の西側、ロシアの南側にある大きな国です。国土は日本の約7倍もありますが、人口は日本の8分の1。人口が集中する街から少し離れると、見渡す限り草原が広がっています。私が2002年から通っている村も草原の中にあり、最寄りの街からでこぼこの一本道を4時間ほどバスで揺られてたどり着きます。

村は人口約700人のカザフ人が家畜を飼って暮らしています。年間降水量500ミリメートル以下の乾燥した地域なので、農耕にはあまり適していませんが、牧畜には適しています。人が食べられない植物も家畜は食べるので、その家畜のミルクや肉を人が利用するのです。


生まれたばかりの子牛を家の暖炉の前に寝かせています。

馬、牛、羊、ヤギ、そしてニワトリや犬も飼っていて、夏の朝は家畜がにぎやかに鳴く声で目が覚めます。草原で放牧する前に、女性たちは子牛に乳を吸わせてから母牛を搾乳し、ミルクを子牛と分け合います。ミルクは紅茶に入れるほか、ヨーグルトやバターを作り、チーズは乾燥させて保存食にします。また、お客が来ると、羊を1頭解体して、肉料理をふるまいます。骨付きのままゆでてスープをかけた肉は最高のごちそうです。

大切な暮らしの糧

やがて秋が来て、長く厳しい冬が過ぎ、春先には再び家畜の出産シーズンがめぐってきます。氷点下になる寒さのなか何度も家畜を見回り、生まれた子が凍えないよう家の中に連れてきて暖炉のそばに寝かせることもあります。こうして育てた家畜は、大切な暮らしの糧であり、カザフ人の誇りでもあります。

 

一口メモ

村の子どもたちは、家畜と遊びながら大きくなり、小学校高学年になると大人から家畜の世話を少しずつ任されるようになります。

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