国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱく世界の旅

カザフスタン(3) 『毎日小学生新聞』掲載 2015年10月3日刊行
藤本透子(国立民族学博物館助教)
村にも普及する携帯電話

家屋(奥)と家畜小屋(手前)。家畜小屋の干し草の上には周囲よりやや高いので、携帯電話の通話スポットでした。

10年前、カザフスタンの村に暮らしていたころ、だれもいない時にリリ~ンと家の電話が鳴りひびくと、いつもドキッとしました。というのは、近所までひとっ走りして人を呼んできてほしい、とたのまれることがとても多かったからです。139世帯のうち電話があるのは約10世帯だけ。街に暮らす家族からの大切な電話を取り次ぐのは、電話がある家の役目でした。あわてて近所の人を呼びにかけていき、放し飼いの犬に追われて棒でたたかうはめになったり、玄関先のペンキぬりたてのかべにもたれてしまったりと、慣れない私は失敗ばかりしました。

数年たつと、90キロメートルはなれた町に携帯電話の電波塔が建ちました。草原の中の村でも、高いところに上るとどうにか電波をとらえられるようになったので、通話場所は屋根の上になりました。家畜小屋の屋根に積まれた干し草の上で、年ごろの男の子が電話しているのを見て、好きな女の子との会話を聞かれたくないのかと思ったのですが、そうではありませんでした。高いところでなければ、携帯電話がつながらなかったのです。

今では、村にも電波塔が建ち、携帯電話で日本の自宅に直接かけることもできます。子どもたちは日本の携帯電話にあこがれていて、「見せて!」とよく言われます。でも、カザフスタンの携帯電話の方が役立つこともあります。ある日、突然の停電に慌てていると、男の子が自分の携帯電話のライトをさっとともしてくれました。停電の多いカザフスタンでは、どの携帯電話にもライトが付いているのでした。


クリスマスツリーの左下に固定電話が見えます。電話機はよく故障しましたが、村と街をつなぐ重要な通信手段でした

カザフスタンで使っていた携帯電話。現地の人にかける時はこの電話を使っていました。
 

一口メモ

2000年代からカザフスタンでは携帯電話が急速に普及していますが、今も電波がつながらない小さな村もたくさんあります。

シリーズの他のコラムを読む
カザフスタン(1)
カザフスタン(2)
カザフスタン(3)
カザフスタン(4)