国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱく世界の旅

都市を歩く(4) 『毎日小学生新聞』掲載 2016年6月25日刊行
出口正之(国立民族学博物館教授)
アートの力で町を元気に

フェンスに描かれた壁画=いずれもサンフランシスコで

アメリカのサンフランシスコを歩いていると、突然「壁画」があふれる地区に遭遇します。この地区には今では100以上の建物にパブリック・アートとしての「壁画」が描かれています。独特の雰囲気のありますね。
「壁画芸術家協会」
 アメリカは移民の国です。この地区は、もともとメキシコ系移民の人たちが多く住んでいた貧しい地区でした。メキシコ系の女性の壁画芸術家たちが、訳せば「メキシコの目の壁画芸術家協会」というような名前の組織を作って、メキシコの文化を取り入れた壁画を40年近くも描いて、町を元気にしました。
当初は壁というよりもフェンスやガレージに絵を描いていき、今では、立派な家や商店の壁にも壁画がたくさん描かれています。また、公園や小学校の壁も絵が描かれています。


通りの角にも描かれています

その協会は政府でもない、企業でもない組織です。こういう組織は、NPO(非営利組織)と言います。1977年に2人のメキシコ系の女性によって設立された小さな市民団体でした。壁画だけではなく、子どもたちに絵も教えています。多くの人の寄付、「財団」と呼ばれる専門の組織の支援、そしてボランティアの協力などから成り立っています。
パブリック・アートですから、通りを通る人の目にいやでも飛び込んできます。壁画によって、移民たちの心意気を橋渡ししているそうです。

 

セザー・チャベス小学校

信号機の小さな違いから、目をこらして、最後はめずらしい「壁画」にたどり着きました。みなさんも都市を歩いてみてください。

 

一口メモ

日本でも工事現場のフェンスに絵を描くことが増えてきました。タイルを張って絵を描く「モザイク」は建築によく使われます。

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