国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱく世界の旅

エジプト(3) 『毎日小学生新聞』掲載 2016年7月16日刊行
西尾哲夫(国立民族学博物館教授)
恵みの木 ナツメヤシ

シナイ半島にあるフェイラーンオアシスではナツメヤシがうっそうと茂っています

エジプトの砂漠を旅していると、とつぜん、緑におおわれたオアシスが見えてきます。オアシスとは、沙漠の中にできた水場のことです。泉をかこんで背の高い木が青々としげり、人間や動物たちが水を求めてやって来ては、つかれた体を休ませます。オアシスでかならず目にする木がナツメヤシです。暑いところにしかない木なので、日本では植物園の温室などでしか見ることができません。。

 

実はあまくておいしい


ナツメヤシで編んだトーバルとよばれる腰当てをつけて木に登り、ナツメヤシを採集しています

砂漠で暮らす人々にとって、ナツメヤシはたいせつな木です。ぽつんと生えているように見える木であっても、ちゃんと持ち主がいます。

ナツメヤシの葉は屋根になり、幹は燃料になります。しかしもっとも利用されるのは、ナツメヤシの実です。ナツメヤシの実はデーツとよばれ、かんそうさせたものは貴重な保存食となります。とてもあまくて栄養に富んでいますから、かつて、砂漠を旅した人たちは、ナツメヤシの実をかならず持ち歩いていました。産地ごとに味にちがいがあり、ナツメヤシの話になるとだれもが「自分の村のナツメヤシが一番おいしい」と言いはります。最近は輸入食料品店でも売っていますから、食べたことのある人も多いのではないでしょうか。


ナツメヤシの繊維を編んでかごなどを作ります

ナツメヤシの実はトンカツソースにも入っています。独特のコクを出すにはナツメヤシが必要なのだそうです。日本に帰ってきてトンカツを食べるたびに、つきぬけるように青かったエジプトの空を思いだします。。

 

一口メモ

砂漠のナツメヤシのほとんどに所有者がいます。どうしても果樹園に入って食べたい時は入り口に横棒を置くというしきたりがあります。

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