国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱく世界の旅

ボリビア・アマゾン(4) 『毎日小学生新聞』掲載 2017年3月4日刊行
齋藤晃(国立民族学博物館教授)
ゴムがもたらした繁栄と衰退

樹液をいぶして固める作業。完成したゴムの塊は100キログラム以上の重さになります

自動車のタイヤや自転車のチューブ、散水用のホースや炊事用の手袋など、わたしたちはたくさんのゴム製品に囲まれて暮らしています。弾力性があり、水をはじくゴムは、わたしたちの生活に欠かせません。そのゴムの大部分がかつてアマゾン川流域で生産されていたことをご存じでしょうか。化学的に合成されるようになる以前、ゴムは天然のゴムノキの樹液から作られていました。アマゾンはそのゴムノキの世界最大の生育地域でした。


ゴムノキの樹液。きれいな乳白色をしています

もともとアマゾンの人びとは、ボールやスポイト、太鼓のバチなどを作るため、ゴムを利用していました。のちにゴムはヨーロッパに伝えられ、加工法が改良されて、タイヤの材料になりました。その結果、ゴムの需要は飛躍的に高まり、アマゾンには空前の好景気が到来しました。しかし、東南アジアでゴムノキの栽培が始まると、アマゾンのゴム産業はすたれてしまいました。


かつてアマゾンのゴムは河川経由でヨーロッパまで運ばれました

ボリビア・アマゾンでは、小規模ですが、いまでも天然のゴムノキからゴムが作られています。樹液の採取者は夜明け前に森に入り、ゴムノキの幹に切り込みを入れます。流れ出る樹液は金属の容器にためられ、日の出後に回収されます。樹液はいまでは化学的な方法で固められますが、かつては煙にいぶすというやり方が一般的でした。半地下式の炉でまきを燃やすと、中央の穴から煙が立ち上ります。そのうえに横棒をわたし、その棒を手で回しながら、樹液を注ぎます。煙にいぶされた樹液は棒に付着し、やがて大きな塊になります。

 

一口メモ

ゴムはフランス語で「カウチュ」といいますが、これは「涙を流す木」を意味する南アメリカの先住民の言葉に由来するといわれています。

シリーズの他のコラムを読む
ボリビア・アマゾン(1)
ボリビア・アマゾン(2)
ボリビア・アマゾン(3)
ボリビア・アマゾン(4)