研究テーマ・トピックス|村上勇介
1.民政移管以降のラテンアメリカ諸国におけるの政治の比較研究
1970年代の後半からラテンアメリカでは、軍事政権から文民政権への移管、民政移管が行われた。「民主化」とも呼ばれるこの過程を経て、今日ではキューバを除くラテンアメリカの国で、民主主義体制を標榜されている。だが、経済的不平等、社会的・地域的・民族的格差、国民としての一体感の欠如など、様々な問題を背景に、民主的な政治がなかなか定着、安定せず、クーデターやその未遂もしばしば見られた。
本研究は、政治をめぐる公式、非公式両面の規範やルール、行動定型としての政治制度という観点から、歴史的な展開をも踏まえつつ、各国の政治展開を比較することを最終的な目標としている。特に、1970年代末以降、どのような政治制度が形成され、ないし形成されなかったのか、あるいは崩壊したのか、という点を分析と考察の中心とする。
考察の出発点としては、政治に関する共有されたルールや行動定型が十分に積み重ねられてきておらず、対立と分裂を繰り返し求心性と凝集性が欠如している例としてペルーを設定することができる。逆に、最近崩れたが、権威主義的なルールや行動定型が75年以上にもわたって存続したメキシコは、ペルーとは対極的な意味で比較の起点とすることができる。
ペルーやメキシコを手がかりに、まず、ベネズエラ、コロンビア、エクアドル、ボリビア、チリといった他のアンデス諸国の場合と比較し、さらには、ラテンアメリカ一般や他の地域とを比べることを目標としたい。
- ペルーの首都リマ郊外にあるミ・ペルー(「私のペルー」の意)という名前の貧困層集住地区
2.ペルー政治の歴史的構造的変化
前出の1.の研究課題と関連するが、現代の政治はこれまでの歴史的な展開の結果であり、この点を無視することはできないと考える。歴史的な経験や地理的条件の違いや経済的な展開の政治への影響など様々な観点から考察を深める必要がある。特に、比較研究を行うための1つの軸として位置付けることを考えているペルーについて、より理解を深めることが必要で、この点に関する研究である。
3.フジモリ時代のペルー政治に関する研究
1990年から2000年にペルーの大統領を務めたフジモリの時代をどうとらえるか、フジモリが政権についていた90年代をペルー史やラテンアメリカの中でどのように位置付けるかといった点について分析、考察することを目的としている。フジモリ政治とそれまでのペルー政治の共通性、具体的な90年代の政治展開、フジモリが決断に際し何を考え、何を意図し、またどのような結果をもたらし政治をどう動かしたのか。こうした点について、筆者が91年から95年の間にペルーに滞在し政治分析に係わった経験や、その後も毎年実施した現地調査の成果を基に、また政策決定に加わった人たちの証言やインタビューなども交えながら分析を行う。
- 丘に描かれた2000年選挙の時の政府公報
4.ミクロ・レベルのペルー政治の実証的研究
本研究は、歴史的な潮流や国政レベルの大政治ではなく、地域レベルで一般の人々がどのように政治にかかわっているのか、という点についてフィールド・ワークを通じ具体的に研究することを目的とする。
- 2001年4月の大統領・国会議員選挙での投票所責任者3人と政党立会人3人
- 2001年4月の大統領・国会議員選挙の開票作業風景
既に、筆者は、1998年に実施された地方選挙において、首都リマの南東部にあるアヤクチョというところを事例に調査研究を実施し、候補者の選出過程と選挙運動過程について観察した。人々がどういう思いや期待を持って政治に向かい合い、地方行政の代表を選出するのか、について考察した。また2000年の大統領・国会議員選挙でも、ある国会議員に密着し、その選挙運動全体を調査した。国会議員候補へ指名される過程から、どのような選挙運動を行い、その過程で一般の人々とどのような話しをし、また一般の人々がどういう要求を彼に提案し彼はそれにどう対応しようとしたのか、といった点を追った。
今後もできる限り、地方選挙などの機会を利用し、調査を継続実施し、時系列的な比較研究を行うとともに、他の国の事例との比較もしてみたい。
同時に、リマの人々を対象に、政治参加や民主主義の捉え方などに関する意識調査も1999年に実施した。この成果は現地で出版されたが、今後、一定の期間を置いて継続的に調査を行うことが必要であり、また、可能であれば、ペルー全体を対象とした調査や他の国との比較も行うことを試みたい。