国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

生きものをめぐって(3) ─ ネズミ ─

異文化を学ぶ

深夜の都市の高層住宅の一室、トイレの水面から白いネズミが、一匹、二匹…と姿を現す。やがてネズミたちは列をなして暗い廊下を進む。いったいどこへ…?

ドイツの映画館で見たコマーシャル映像であったと思うが、21世紀の都市の深奥を、列をなして進むネズミの姿が目に浮かんで、印象に残った。

中世ドイツには笛吹き男に導かれるネズミの物語がある。トイレからあらわれたネズミは、この物語の現代版であるように思えた。

ネズミは古くから人間社会と交渉しながら、地下世界と人間世界のあいだを自由に交通してきた。そのようなネズミに人々が与えたイメージは、じつに豊かである。

現代都市のもうひとつの不可知の世界、コンピュータを媒介する者の名もマウスだ。

国立民族学博物館 森 明子

毎日新聞夕刊(2005年6月22日)に掲載