国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

創世神話(9) ─利用された創世説話─

異文化を学ぶ
 


北海道平取(びらとり)町は、古くからアイヌの人びとが住む土地であり、アイヌ研究者として有名な萱野茂氏の故地でもある。

沙流(さる)川のほとりにあるこの町の高台に、荒廃した奇妙な建造物がある。聞けば「UFOを信じている集団が造った。ここにUFOが現れる」からなのだという。

その真偽のほどはともかく、この丘は「ハヨピラ」というアイヌの聖地にほかならない。アイヌの文化神オキクルミが天界からカムイ・シンタ(神の・ゆりかご)に乗って天下られた丘である。このカムイ・シンタこそUFOだというのが、その集団の理屈である。

しかし、アイヌの人びとにとってオキクルミの神は、アイヌ文化を創造なされた大変尊い神である。国土の創造の神モシリ・カラ・カムイが、天界にもない美しいアイヌ・モシリ(人間の国土)をおつくりになられたとき、そこを統べるものとしてオキクルミを遣わし、神はアイヌにさまざまな文化を教えた。

平取はアイヌの伝統的生活空間の再生地として、また重要文化的景観として国指定された町である。だが、今日の「ハヨピラ」は、無責任な集団によって荒らされたままである。

国立民族学博物館 佐々木利和
毎日新聞夕刊(2008年11月26日)に掲載