国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

便利?不便?(1) ─バンドンの住居表示─

異文化を学ぶ


約20年前、私は、インドネシア・ジャワ島西部の都市バンドンで2年間ほど伝統音楽を学んだ。私が借りた家の近所には、ギター通り、バイオリン通り、シンフォニー通りなど、おもしろい名前の通りがたくさんあった。

日本人にはなじみが薄いが、ガムラン通り、ゴング通りなど、伝統音楽にかかわる名前をもつ通りも多かった。私の家の向かいにあった芸術大学にちなんでつけられたに違いない。通りの名前を聞けば、大体の場所が予想できて便利だった。

バンドンの住居表示はいわゆる道路方式で、通りの端から順番に番号が振られている。初めての家を訪ねるときも、通りの位置がわかれば、確実にたどりつける。一定の街区を区切り、その中で番号を振っていく日本の住居表示に慣れた私には、そのわかりやすさが魅力だった。

ところが、郊外にどんどん広がる新興住宅地では、似通った名をもつ通りがどんどん作られ、とても覚えきれなくなった。索引付きの地図を作ったら、辞書並みの厚さになるだろう。通りの名と番号だけを頼りに、たくさんの音楽家を訪ね歩いた当時と違い、今は、バンドンの住居表示を便利だと思わなくなってしまった。

国立民族学博物館 福岡正太
毎日新聞夕刊(2008年12月3日)に掲載