国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

あいまいさの文化(1) ─ 文化の豊かさを見る ─

異文化を学ぶ

各地の文化では、善-悪、聖-俗、生-死、など二分法のいずれにも属さないもの、境界を越えたもの、両義的なものに、既成の枠組みを越えた力があるとされ、畏敬(いけい)と憧憬(しょうけい)の対象となってきた。

横溝正史『悪魔の手毬(まり)唄』冒頭のように昼夜どちらでもない夕暮れ時が「逢魔(おうま)が時」と恐れられたり、多くの民話で善悪を超越したトリックスターが文化破壊と再生のヒーローだったり、手塚治虫のリボンの騎士のような両性具有へのあこがれなど、どちらでもない「あいまいさ」にしばしば文化の機微が現れる。

近代化が、境界を作り出し分類する動きであったと考えるならば、あいまいさに目を向けることは、文化の豊かさを再認識するきっかけになるかも知れない。

国立民族学博物館 久保正敏

毎日新聞夕刊(2005年12月14日)に掲載