国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

あいまいさの文化(5) ─ ルーマニアのストリゴイ ─

異文化を学ぶ

墓場から帰還して夜の闇の中を徘徊(はいかい)し、人びとを恐怖でおののかせる生ける死者ストリゴイ。生者の世界と死者の世界の二つの世界を行き来する境界的な存在である。

東欧やロシアの民俗社会で、共同体の掟破りや儀礼の失敗の結果とみなされ語られてきた古い伝承の産物だが、近代に入って西欧にわたると吸血鬼となった。19世紀のイギリスではブラム・ストーカーが、それを太陽の光を恐れて昼を棺のなかで過ごし、夜の闇のなかを徘徊し美女の生き血を吸うゴシック・ロマン的イメージにしたてあげた。フランケンシュタインとならぶホラーヒーローの誕生である。現代の日本では、萩尾望都によって永遠の若さとそれゆえに終わることのない喪失に苦しむ少年たちの流浪の物語となった。

国立民族学博物館 新免光比呂

毎日新聞夕刊(2006年1月11日)に掲載