国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

働くということ(8) ─ 仕事の代償 ─

異文化を学ぶ


赤ん坊の夜泣きがうるさいからと医者に相談したら、子どもは泣くのが仕事、と言われて納得したことがある。水槽を行きつ戻りつする金魚も、せわしなく木の実を頬(ほお)張るハムスターも、それが仕事と考えれば合点がいく。

ボルネオの狩猟採集民を調査した時には、吹き矢を手に森の中を徘徊(はいかい)するのが男たちの日課だった。まれに獲物の動物に出くわしたり、季節の果実を手にすることもある。仕事というにしては実に心躍る時間。

主食のサゴ澱粉(でんぷん)はいつでも採取できたから、食うに困る恐れはない。それでも、伐採業者のもとで働き、小金を稼ぐ仕事熱心な者はいた。自らのよってたつ自然の恵みと引き換えに得た収入で、食料や日用品を手に入れる。働くとはなかなか因果な情熱だ。

国立民族学博物館 佐藤浩司

毎日新聞夕刊(2006年7月26日)に掲載