国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

おしゃれにきめる(1) ─ アボリジナルの腕時計 ─

異文化を学ぶ


オーストラリアの北部アーネムランドには、とりわけ文化的な伝統を重んじるアボリジナルが暮らしている。

彼らは、祖先の精霊をことほぐ星まつりの儀礼などを、いまも執り行っている。その儀礼での踊りの時、年長の男性はバンドの部分が金属の腕時計を好んで身につける。腕時計は踊り手を照らす車のヘッドライトやたき火の明かりを反射し、体の動きに合わせてキラキラときらめく。太陽の光を反射するまぶしい海面のように、あるいは雨粒に映える光のように。

彼らにとってこのきらめきは、祖先の精霊の力を、時には精霊の出現をさえ暗示する。儀礼の場を離れても腕時計をはずさないことが多いのは、もちろんおしゃれでもあるのだが、精霊とともにありたいという願いの現れでもある。

国立民族学博物館 松山利夫

毎日新聞夕刊(2006年8月2日)に掲載