国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

もてなしのかたち(3) ─ 自家製 ─

異文化を学ぶ


オーストリア南東部で山の斜面に点在する農家を1軒ずつ訪問して歩いた。家に招じ入れられて安堵(あんど)すると同時に、まずすすめられるのがモスト。地下室の樽(たる)からくんできたばかりの自家製リンゴ酒の味は格別だった。

パン、ソーセージ、シュナップス(蒸留酒)も自家製だ。リンゴの木の形やパンを焼く主婦の姿を思い浮かべながら、今年のモストは上出来だとか、シュナップスにどういう香草を入れたとかいう話に聞き入る。知らぬまに家に包まれ、数時間を過ごしていた。

クリスマスから正月にかけて、家は常にまして、客を迎える準備を整える。大掃除をして、クッキーを山のように焼き、ツリーを飾るのは客のためでもある。客をもてなしてこそ、家の主人も家人も面目を施すのだという。

国立民族学博物館 森 明子
毎日新聞夕刊(2006年12月20日)に掲載