国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

成長と試練(3) ─ ジュウル・ルナアル著『にんじん』を読む ─

異文化を学ぶ


『にんじん』というと、赤茶けた髪とそばかす顔の少年がいじめられる物語として有名だが、オムニバス形式の原作は、意外にユーモラスだ。いたずら者の「にんじん」も登場する。この作品が脚光を浴び、作者の代表作となったのは、父子の葛藤(かっとう)を主題にして大幅に書き換えた戯曲が評価されたからだ。著者の死後映画化され、さらに有名になった。

映画では、首に縄を巻いているところを発見され、ようやく父子の心が通い合うラストシーンが感動的だが、岸田国士訳の原作(岩波文庫)にそんな場面はない。このあだ名はイジメの張本人だった母親がつけた。原作は母親とのやりとりが中心で父親のカゲは薄かった。作者の文学的成長とともに『にんじん』も大きく成長した。

国立民族学博物館 近藤雅樹
毎日新聞夕刊(2007年2月21日)に掲載