旅・いろいろ地球人
休暇とバカンス
- (2)社会主義今昔 2009年6月10日刊行
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新免光比呂(民族文化研究部准教授)
黒海に面した港の夕暮れ今は懐かしき社会主義時代、私がまだ学生だったころにルーマニアで友人のバカンスのお相伴にあずかった。国の中央部、カルパチア山脈に抱かれたブラショフから黒海沿岸へ向かうおんぼろ自家用車にのせてもらったのだ。
飢餓輸出と言われた経済的苦境のなかでガソリンの一滴は血の一滴、貴重である。そこで友人は究極のエコ運転で海を目指す。下り坂ではエンジンをこまめにきり惰性で走る。しかし、モノは乏しいが、休暇はたっぷりとれたのが社会主義時代の幸せというものである。
車の中は一日中会話のとぎれることがない。黙っていたら、すぐに後部座席から夫人が私を会話にいざなう。「どうしたの。なぜ黙っているの。何かしゃべりなさいよ」
ルーマニア人というのは、まったく黙っていられない人種らしい。日本人のような白けた会話の空白に耐えられないのだ。
最近では日本人もよくしゃべるが、耳にするのは空疎な言葉ばかり。これなら、かつての沈黙のほうがましという気もする。とはいえ、空前の不況のもとで一番安上がりな娯楽はおしゃべりだ。家庭、職場で、はたまた電車のなかでも会話があるのは幸せだ。さらにいえば、大阪人の洗練された会話術があればもっといい。
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