「俺の秘密話をきかせてやろうか」
メキシコ東部のマヤ民族の村で調査をしていた時、出稼ぎからもどった男が、私に話しかけてきた。
彼は焼畑でトウモロコシを作る典型的なマヤ農民だ。だが収入を補うため、カリブ海岸のリゾート都市、カンクンへしばしば働きにいっていた。
「俺がホテルで働いていた時のことだ。驚いたことに、ガバチャ(外国人女性)に呼び止められて、部屋に招かれたんだ。彼女はずいぶん寂しそうだった」
「すぐに俺たちは恋人どうしになった。でも彼女が帰る時、問題がおきた。いっしょに来てほしいって頼まれたからさ」
「俺は悩んだよ。彼女の国にいけば、いい暮らしができることはわかっている。でも俺には養うべき妻子がいるんだ。それで結局、きっぱり断ったさ」
実はこれは、カンクンで働く男たちが好んで語る自慢話だ。ホテルの名前や女性の国籍があいまいなのが特徴だ。だから私はこの話の真偽にはあまり関心がない。むしろ注目したいのは、この話が、熱帯のリゾートでバカンスを過ごす観光客に対する、地元の人のまなざしを巧みに伝えている点だろう。
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