旅・いろいろ地球人
宗教とアルコール
- (8)神へ思いを伝える酒 2010年3月24日刊行
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野林厚志(研究戦略センター准教授)
パイワン族の祖霊像(中央)に酒を献ずる台湾の原住民族の人々にとって、酒は儀礼時には神に捧(ささ)げる大切な財産であると同時に嗜好品(しこうひん)としてもこよなく愛されている。
彼らは本当によく飲み、歌い、語り合う。そんなときに本音がでることもあり、酔っぱらってからが調査の始まりのようにも思える。もちろんお互いに酔わなければ、信用は得られない。真剣勝負なのである。
ところで、私は通い続けている村の首長宅に行く時は、米酒という蒸留酒を持参する。首長家に伝わる祖先像に酒を捧げるのである。祖先像の前で、首長はコップにいれた酒を指ではじき、私の来訪を祖先に伝え、健康や安全を祈祷(きとう)してくれる。
私のこの習慣を村の人たちも知っていて、村に行った初日に酒を買いにいくと、酒代をただにしてもらえることがある。神様にあげる酒にお金はとれないよとのこと。粋なはからいが生きている社会である。
首長は祈祷を終えると、私にコップを渡す。私はそれを一気に飲み干す。酒がのどを通るとき、身がひきしまり、感謝の気持ちがこみあげる。酔わない酒なのである。シリーズの他のコラムを読む
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