旅・いろいろ地球人
宗教とアルコール
- (3)酒と呪術 2010年2月17日刊行
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信田敏宏(研究戦略センター准教授)
酒を飲まない真の呪術師イスラム教の国マレーシアでお酒に酔っぱらっている人を見ることはそう多くはない。しかし、私が調査をしている先住民オラン・アスリの人びとはイスラム教徒ではないので、当然飲酒をする。初めてオラン・アスリの村を訪れたとき、道の真ん中に男性が倒れていた。どうしたのかと驚いていると、通りかかった人が、「酒を飲んで酔っぱらっているだけだから、気にするな」と言って、男性を道端に動かした。
現在、オラン・アスリ社会では、アルコールの問題が深刻化してきている。開発プロジェクトなどによって村の中に経済格差が生じてきたことが、その原因のひとつである。酒の上での喧嘩(けんか)は日常茶飯事であり、栄養失調で苦しんでいる子供の傍らで、父親がぐでんぐでんに酔っぱらっているといった話も聞く。生活が苦しくなるにつれ酒におぼれ、結果、仕事もままならないといった状況に陥っている人が少なからずいる。
オラン・アスリは昔から呪術力が強い民族として知られているが、その呪術力を畏(おそ)れているマレー人は、酒におぼれていくオラン・アスリの人びとを見て、「彼らの呪術力が弱まってきている」という分析をしているらしい。シリーズの他のコラムを読む
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