旅・いろいろ地球人
そう言えば、あのとき・・・・
- (1)火付けの罰 2010年4月7日刊行
-
久保正敏(文化資源研究センター教授)
枯れ葉に火を放つ=1999年8月、オーストラリア・アネームランド普及し始めたGPSを携えオーストラリア北部に仲間と出かけた。住宅や道路建設などアボリジニ・コミュニティーのインフラ整備史を調査していた時のことだ。アボリジニは下草が少ないうちにブッシュに火を放つ。その方が大火にならず、環境管理型のブッシュファイアである。
ある日、火線がどこで止まるものか試してみようと、道ばたの枯れ草に火をつけた。乾燥した下草だけが燃え広がるのを見届けたその翌日、再び出かけて、歩幅で焼け跡の広さを調べようと3人が森の奥へとそれぞれ分け入った。
が、戻ろうとした私は森の中で迷ったのだ。深い木立で仲間に声は届かない。森の中は、どちらを見ても同じ風景に見える。せっかくのGPSはばかなことに車に置き忘れてきた。記憶が混乱し錯覚も重なって結局は一時間半も彷徨(ほうこう)するはめになった。
パニックで冷や汗が出るのを生まれて初めて経験しつつ、何とか道路に出た。安堵(あんど)からか足はガクガク、ようやく仲間と合流できた。
悪事は千里を走り、次の日にはうわさ話の大好きなアボリジニたちにドジな日本人の笑い話を提供することになった。が、おそらく、部外者が放火したことへの罰を森の精霊から食らったに違いない。シリーズの他のコラムを読む